5.天使少佐ネプティエル

「そこまでっ!!」


 俺達召喚者のバトルロイヤルが、俺とガゾ、それに残り一人になって。

 いよいよ、俺もガゾと戦わないといけないかと思った時。


 なにやら乳臭い子供のような声が闘技場に響いた。


「ネ? ネプティエル様っ!!」


 カリアスエルが動じる声が聞こえる。


「カリアスエル。見ていればいい戦士ではないか、この者共は。これを潰そうとするとは、貴様の目は節穴か?」


 子供の声が更に響く。

 やがて。


 空中に緑光の球が発生したかと思うと、それがはじけて。


 なかから、緑色の豊かな髪を持った、幼女天使が現れた。

 幼女天使は、武舞台に降り立って。

 俺達の方に歩んできた。


「貴様、名を何という?」


 ネプティエルというらしい、この幼女天使。

 えらくかわいい。

 生意気そうな緑色の瞳をくりくり動かして。

 やっぱり生意気そうな口調で、パールピンクのぷるぷるの唇を動かす。


「おれは、エイタ……」

「よし、エイタ。お前合格!!」


 ネプティエルはそう言うと。俺の胸に、手を押し付けた。

 するとそこに。光る緑色の印が記された。


「これでお前、わしの部下ー!!」


 そう言って、キャハハと笑う。それから、俺でもガゾでもないもう一人に歩み寄る。


「お前、名はなんだ?」

「私は。オオヤマミツグ……です」

「長いな。ミツグで良い」


 そう言ってやはり、胸に手を押し当てて押印し、自分の部下になった証拠を刻むネプティエル。


「あとは、ガゾ。お前か。お前はここからは出ないんだな?」


 ガゾの前に立って、そう聞くネプティエル。


「仰せの通りです、ネプティエル様」

「ふん。わかった。無理に引っ張り出すことはしない。ただ、お前が出る気になった時。わしの所に来てくれると嬉しいかもだ」


 ネプティエルはそういうと。

 頭を下げているガゾの首に手を回して。


「こういう事ならいつでもしてやれるぞ? ガゾ」


 ディープキスをした。


   * * *


「わしの名はネプティエル。対魔族の実働部隊の一つ、ネプティエル隊の司令官だ。位階は天使少佐。神軍二等兵となった貴様らから見れば。まあ、雲の上の存在だ」


 いひひひひ、と変な声をだして可愛く笑いながら。

 綺麗に整えられた天使少佐の執務室で、俺達に紅茶とチョコプティングを振舞ってくれるネプティエル。

 俺は、その一事だけで思っちまった。


(こいつ、奇跡的にいい上官なんじゃないか?)


 ってな。


「ネプティエル……さん」

「ネプティエル様って。呼べないか?」

「無理っす。俺、無理やり召喚されたし」

「……んじゃいいけどな。一応上官なんだぞ? わし」


 ネプティエルは、自分の事を『わし』という一人称で表す。

 何というかロリータな見た目とミスマッチで、見ようによってはギャップ萌えがあるんだが。


「ミツグ、お前はわしの事をネプティエル様と呼べるか?」


 俺ともう一人、戦士になることになった、ミツグという奴にネプティエルが尋ねる。


「別に……。呼べますけどね。上司が現世のあのクソ上司じゃない分、余計呼びやすいかもです」


 こいつ、多分なんだけど。俺と同じ地球の出身なんだよな。しかも、日本人だ。

 言いぶりを聞く分には、嫌な上司のいるブラック企業勤めだったのかもしれない。


「んじゃ、いいぞお前ら。わしの呼び方は、エイタはネプティエルさんで、ミツグはネプティエル様と呼んでくれ」


 こいつ、フランクだなぁ……。あのキリスタと一緒に召喚の間にいた、クソあったま堅い、あの四元帥とはえらい違いだ。


「三日間。準備期間を与える。神帝城キリスタルズハイムの城下町で、遊んでろ。その軍資金は、ホイ」


 俺と、ミツグの前に。

 中サイズの革袋が置かれた。


「中身は、神界通貨のうち、銀貨が5枚入っている。まあ、普通に使っていれば無くならん」


 俺は、その言葉に。革袋を取って、口を開けてみた。


「……! これって、まさか純銀か?!」


 銀のコインが五枚入っていて。コイン同士をぶつけると、凄い澄んだ音がするので、俺は思わずネプティエルに尋ねた。

 ネプティエルは怪訝な顔をした。


「合金にして強度を出すんでもなければ。金属というものは純度が高い方が扱いやすいもんだ」


 そういって、イヒヒヒヒと笑う。


 この神帝国キリスタリア。

 どうやら実力を認めると、めっちゃ好待遇をしてくる国っぽい。


 良し、とりあえずだが。

 ここで成り上るか、戦士として。


 あのキリスタの奴に近づいて、愛顧されるぐらいになれば、ひょっとして。


 妻のちーちゃんと息子の小彌太がいる現世に帰る事を、許してくれるかもしれないからな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る