第20話 ルルナと逃亡

乙姫セリカに監禁されていた僕は、いつの間にか、ボディーガードの玉石さんに救出されていたんだ。


気づくと僕は山荘のベットで寝ていて、そこで、前髪できれいな顔を隠した玉石さんがラムネシガレットを咥えて、真剣な顔で僕をのぞき込んでいた。


「・・・安心する・・・今は逃げて・・・。学校はうまくやるから・・・とにかく・・・30億の借金を・・・逃げて・・・手に入れる手を・・・考える・・・」


玉石さんはそう言って、起き上がった僕を優しく抱きしめてくれた。


ふにゃり


ああ。玉石さんの小さいおっぱいの感触が僕の胸に伝わる・・・。


「・・・」


「・・・ん? ・・・どうした?」


「い、いや。なんでもないです・・・」


僕が服を着替えて部屋を出ると、玉石さんはいつの間にか消えていた。


そして、東側の小さなキッチンで料理をしているルルナがいた。


僕がそっちの方に行くと、エプロンを取ってルルナが近寄ってきた。


そこから僕の少し手前で立ち止まって、僕を心配そうに見て来る。


「隆起ぃ。・・・大丈夫?」


僕が少し頷くと、ルルナはそれから駆け寄って僕をそっと抱きしめてくれた。




ルルナは僕の髪をやさしく撫でて言った。


「私・・・友達として黙って静観なんてできないと思ったの。30億の借金じゃどうしようもないけど、隆起のそばにいたい。玉石さんにお願いして、隆起と一緒に逃げることにしたの。何もかも捨てて」


「ルルナ・・・」


「今は大変だけど・・・逃げて、逃げて、二人だけの居場所を作りましょう。隆起」


「ッ・・・。ルルナ。 僕、ルルナのためにどこまでも頑張るよ。例え1文なしになったって、例え30億借金があったって、いつか、ルルナを幸せにするからッ。友達として」


「・・・隆起」


ルルナは少し泣いて、僕をまた抱きしめてくれた。


ルルナの感触はどこまでもやわらかくて、僕は、とてもルルナが愛おしくなった。


「ルルナ・・・大好きだよ。・・・二人で逃げよう・・・」


「私も愛してるわ。隆起。この世界で私とあなただけ・・・友達として」


「ルルナ。ルルナ。僕は友達としてルルナが好きだ・・・」


「・・・隆起・・・。私も大好きぃ」


僕はルルナと一緒の部屋で寝て、色々な小さい頃の話をした。 たまにルルナが元気づけて手を握ってくれて、その温かいぬくもりに包まれた。


それは小さい頃に味わって今はもう忘れていた、小さな友情のぬくもりだった。



今少しだけ時間がある。筋トレちくちくやろ。


腕立てッ! 腕立てッ! 腕立てッ! 伊藤ッ!


・・・ルルナを守るためにちょっとでも力をつけるんだ・・・やるんだっ



それから、翌日、僕とルルナは玉石さんの用意してくれたその静岡の山荘で目覚めたんだ。


小山に囲まれた小さな伊豆地方の別荘。


田園伊豆線から途中にある温泉街の脇にある山奥の別荘だった。


この場所に逃がされて僕は思った。


不思議と妙な安心感がある。なんていうか、やっと逃げ出して自分の居場所を掴んだ感じだ。


ルルナがいて、母さんがいて、それで、ほんとは僕は3人だけで僕は暮らしかったのかも知れない。3人だけの優しい世界で。


・・・ここには母さんはいないけど、それが残念だ。


母さんがいたらなぁ・・・。ああ。母さん、抱きしめたい。


逃げ出したのに、妙に落ち着いた意識が働いて、自分でも不思議。 現実に借金があるのに。やっぱりルルナと一緒だと安心感があるんだ。


そこで、ルルナが料理をしてくれて、僕たちは二人で料理を食べた。


「・・・あっ。美味しい・・・」


「夏野菜を使った冷製スープなの。静岡は新鮮な夏野菜と水が美味しいのよ」


冷たいかぼちゃとたまねぎのやさしい味わいがすごく美味しいなぁ・・・。


僕はうれしくて本が出た。


ポン


https://kakuyomu.jp/works/16817330657217443806


僕は本をポケットに隠した。



「・・・いつまで逃げられるのかしら。私たち」


「30億も借金あって逃げ出したら世間の目は厳しいよね・。ただ、僕には今どうしようもないから」


「私がついているわ! あなただけ・・・あなただけ守るから」


「・・・うれしいよ。ルルナ。」


「うん。友達だもん」


同じ歳のルルナの少し大人な笑顔が僕は好きだ・。ルルナは少し悲しそうな表情で。


それがどこまでも、僕にはきれいに見えた。


玉石さんからの紙の伝言が山荘のテーブルに残ってた。


「・・・山荘は仮に抑えただけ・・・。2,3日したら電車で逃げて・・・。・・・そうじゃないと・・・痕跡を辿って・・・追手がやってくる・・・世間を味方につけた・・・乙姫セリカが・・・あなたを追ってる・・・」


やっぱり・・・乙姫さんは僕を追ってるのかぁ・・・


乙姫さんに監禁された少ない日々のことを思う。 ぞっとする日々だった。


僕はつらい思い出を忘れるように、テレビをつけた。


だけど・・・


テレビをつけると、乙姫セリカがいた。 泣きながら泣きながら大きな胸を振わせてオーバーリアクションで訴えていた。


「裏切られましたっ! 裏切られましたっ! 私、伊藤隆起くんに裏切られたんです! 30億も借金を肩代わりさせられて・・・私っ、私っ、・・・今、死ぬほど悲しいんです・・・お金じゃなく・・・ただ、心が痛いっ・・・張り裂けそうですッ」(ぷるるん♪ ぷるるん♪)


「・・・なんだよ・っ。これっ~!」


乙姫セリカはなお、僕に対してテレビで攻撃を仕掛けている。


「追ってくださいッ。勇者の癖に、その義務を果たさず、私に借金を押し付けた伊藤隆起くんをっ。それでも私は彼を愛してるんですっ。だから、彼を日本中で追いかけて、30億の借金の責任もっ、私に対する愛の責任も負わせて欲しいんですっ!!」


(ぷるるん♪ ぷるるん♪)



「冒険の人たち! 立ち上がれ! 立ち上がって見つけてくださいっ! 伊藤隆起を追って! 今、日本の冒険者をひとつにして、伊藤隆起を追いましょうっ。さあっ。みなさんっ。私を助けてっ」


美しいロリ顔の乙姫セリカの迫真の演技に、テレビの中で乙姫セリカを応援していた聴衆が叫ぶ。


うおおおおおおおおおおおおおおっ。


「伊藤を追えっ!伊藤を追えっ!伊藤を追えっ!伊藤を追えっ!伊藤を追えっ!」

「乙姫セリカッ!乙姫セリカッ!乙姫セリカッ!乙姫セリカッ!乙姫セリカッ!」

「純愛!純愛!純愛!純愛!純愛!純愛!純愛!純愛!」


冒険者が雄たけびを上げていた。世間の人が雄たけびを上げていた。僕を追うために。


乙姫セリカは世間を味方につけて僕を追い詰めて、自分のものにしようとしている。


そのとき、乙姫セリカがニヤリと笑ったように見えた。 顔は泣いているのに。


「あの人は今、すべてを犠牲にして、女友達と一緒に逃げていますっ! 女友達を捕まえてくださいっ! そいつが戦犯ですっ! みなさんっ! 私のために! 女友達を捕まえてッ」


おい・! 乙姫セリカっ・! ルルナをどうするつもりだっ!


僕がぞっとしてそして、そのときに、バタンと山荘のドアが乱暴に開いた!!!


振り返ると荒っぽそうな冒険者がいた!!!


ふとったヤツと痩せたヤツ二人だ。


「へへへ。怪しいヤツが来たって情報通りだっ。伊藤ぉお! 見つけたぞおっ。 おっ。女もいるじゃねえかっ。女友達ともどもお前を捕まえてやるぜえッ!!!」


「警察に逃げても無駄だあッ。お前は乙姫さんに借金を負わせた詐欺師だからなあ」


「お前らには乙姫さんから懸賞金が1億掛かってるッ。お前を捕まえるのは俺らだあああ。へへへ。日本全土の冒険者がお前を追っているぜえええ」


冒険者が僕らを追っていた・。そして、法律も世界も僕らの味方じゃないことがわかった。 ああ。僕らは逃亡者なんだ。


僕はルルナの手を取って、二人で山荘から逃げ出した。


「ルルナっ。逃げようっ。二人でどこまでも」


「ええ!! わかったわ! 隆起っ」


一緒に逃げるルルナはどこまでもかわいかった。

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