第6話 悪役キャラ、刺客を尋問する





「これは何の真似ですか!!」



 フレイヤが叫ぶ。


 しかし、護衛の騎士たちはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。



「フレイヤ・ドヴァレンティヌス。いや、今はフレイヤ・リ・コリエントか。貴様に恨みは無いが、死んでもらう」


「隊長ぉ。このババア、歳の割にはエロい身体してるし、ちょいとヤッちまって良いですかい?」


「……好きにしろ。ただし、ちゃんと殺せよ」


「へーい」



 騎士の一人が、フレイヤに手を伸ばした。


 なので、全力でぶん殴ってやった。



「へぶ!?」


「「「「……え?」」」」



 フレイヤも御者も騎士も、全員が目を丸くしている。

 俺のような子供が大人を一人、軽々とぶっ飛ばしたのだから無理もないだろう。


 俺はフレイヤを馬車に残し、外に出る。


 そして、今し方ぶっ飛ばした男の顔面を念入りに叩き潰しておく。



「へぶ!? ま、まっへ、や、やめっ――」



 命乞いを始めようとする男の顔面を蹴り飛ばす。


 どうやら、たったそれだけで気を失ってしまったらしい。



「な、なんだ、お前は……」


「言う必要は無いね。でも俺は優しいから選ばせてやるよ。全部話して俺の経験値になるか、何も話さずして俺の経験値になるか。第三の選択肢は無い」


「っ、こ、殺せ!! このガキをすぐに殺せ!!」



 リーダー格と思わしき男が叫び、騎士たちが剣を抜こうとする。


 しかし、抜こうとしただけで動かない。



「な、何をビビってる、お前たち!!」


「ち、違うんです、隊長……う、動かないんです」


「……は?」



 俺は既に闇の古代魔術を発動し、影を操って男たちを拘束していた。


 リーダー格の男が動揺する。



「な、なんだ、これは……魔法、なのか? こんなおぞましい魔法、見たこと……」


「おぞましいとは失礼な。そして、これは魔法じゃない。魔術だ」


「な!? き、禁忌だぞ!! 魔術を使うなど、道理に反する!!」


「人を殺そうとしてるお前らが言う?」



 思わず笑ってしまった。



「まあ、いいや。今から質問する。正直に答えてくれ」


「だ、誰が言うものか!!」


「あ、そう? じゃあ一人」


「ひっ、や、やめ、く、来るな、化けも――」



 グチャッ。


 俺は身動きが取れない騎士の一人の頭を掴み、握り潰した。

 流石、推定レベル300はフィジカルが違うな。


 ……人を一人殺したのに、それだけしか感想が浮かばない自分が怖くなる。


 いや、悪役キャラなんてそんなもんか。

 俺はどこまで行ってもユーヴェリクスであって、地球育ちの甘ちゃんではないのだ。


 俺は尋問に戻る。



「な……」


「お前が質問に答えないなら、全員殺す」


「ぐっ、わ、我らの忠誠を見くびるな!!」


「ふーん。忠誠、ね。となると依頼主は高貴な身分の人間か」


「っ、な、なんのことだ?」


「今更とぼけるのか。くっくっくっ。まあ、そっちがそういう態度なら……」



 俺はもう一人、適当な騎士の頭を掴む。



「や、やだ、やめて!! ゆ、許して、許してください!! 隊長、助けて!! たす――」



 グチャッ。


 敢えて惨たらしく殺す。でも……。



「このやり方じゃ服が汚れるな。面倒だし、影で潰すか」


「ひっ、ぎゃあ!?」


「あぎっ!?」



 リーダー格の男と数人を除いて、全員を影で捻り殺す。

 その場の誰もが絶句し、恐怖していた。



「さて。もしも話してくれたなら、こんな無惨な殺し方・・・・・・はしないでやろう。誰の命令だ?」


「……っ」


「あっそ。もう良いや」



 もう尋問が面倒だったため、影で全員を捻り殺そうとしたその時。



「こ、皇帝陛下だ!! オレたちは皇帝陛下の命令で来たんだ!!」


「お、おい!! 貴様!! 皇帝陛下を裏切る気か!!」


「お、オレは死にたくないんだ!! 帝国に忠誠なんか無い!!」


「裏切り者め!!」



 部下の一人が自白し、激高するリーダー格の男。


 ふむ、なるほど。

 理由は分からないが、あのクソ野郎が俺とフレイヤを亡き者にしようとしたのか。


 とことんクソ野郎だな。


 それから聞いてもいないことをペラペラと話し始める部下の男。

 リーダー格がその度に怒鳴り散らすため、全て真実なのだとすぐに分かった。


 もう用済みだな。



「あ、あの、知ってることは全部話しました!! だ、だから、命だけは!!」


「おっけー。約束通り、お前は酷い殺し方はしないよ」


「あ、ありがとうございます!! ありが――」



 俺はお礼を言う男の脳天を影で貫いた。


 痛みはなく、自分が死んだことにも気付いていないだろう。



「な、何故、なぜその男を、殺したのだ?」


「ん? 俺、命を助けるなんて一言も言ってないぞ? 無惨な殺し方はしないってだけで」


「あ、悪魔め!!」



 悪魔、か。悪役には最高の褒め言葉だね。


 俺は刺客を全員始末して、馬車へと戻った。



「リクス!! 怪我はない!? こんなに血だらけになって……」


「あ、これは返り血なので――」


「そういう意味ではありません!!」



 俺はビクッと身体を強張らせた。


 フレイヤに怒鳴られたのは、何気に初めてではないだろうか。


 フレイヤが俺を優しく抱きしめてくる。


 おっふ、柔らかいおっぱいが!! 俺の頭を包み込むぅ!!



「……母上、俺は人を殺しましたよ? そんな俺の心配をしてくれるんですか?」


「それがなんです。命を狙ってきたのは向こうが先なんですから、死ぬのも覚悟の上でしょう」



 顔色一つ変えず、平然と言ってのけるフレイヤ。



「……ふふ、くっくっくっ」


「どうしたの? やっぱりどこか怪我を?」


「いえ、いえいえ。違いますよ、母上」



 俺も大概だが、フレイヤも中々悪役の素質があるって思うわ。


 というか、ユーヴェリクスの悪役の遺伝子はフレイヤから受け継いだもののような気がする。



「……これからどうしましょうか。まさか陛下に命を狙われるなんて」


「聞こえてたんですね、母上」


「あれだけ大声で叫ばれたら、ね。嫌でも聞こえてしまうわ」



 離縁したと言っても、やはり思うところがあるのだろう。

 フレイヤは少し悲しそう俯いた。


 問題は、ここからどうするか、である。


 あのクソ野郎が俺やフレイヤの命を狙ってきたなら、もうこの国に安全な場所は無い。


 しかし、ヴァレンティヌス帝国は大陸のほぼ全土を統べる超大国だ。

 逃げ場はどこにも無いだろう。


 フレイヤもそれを分かっていて判断に困っている。


 ふむ。こうなったら……。



「……母上」


「何かしら?」


「俺達を受け入れてくれるかも知れない場所があります」



 俺は死体や馬車を影に収納して、ある場所を目指して歩くのであった。

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