第4話 悪役キャラ、ヒロインと遭遇する





 通称、金属ダンジョン。


 ストーリーをクリアしたあとで挑める、言わばやり込み用のダンジョンである。


 その性質は、経験値が馬鹿みたいに貰える金属系のモンスターしか出ないというもの。

 要するにレベル上げにはうってつけの場所ってことだ。



「お、カッパースライムか。お前も経験値は多いけど、お目当ては違う奴なんだ」



 俺が探しているのは、プラチナ系モンスターだ。


 金属系モンスターの中でも笑っちゃうくらい経験値を多く貰えるモンスターである。


 こいつを二、三匹倒せば、レベルが一気に100まで届くだろう。

 しかし、俺のレベリングはそこで終わらない。


 このダンジョンには、プラチナ系モンスター以上の超激レアモンスターが出るのだ。


 そのモンスターの名は『リミットラット』。


 こいつを一匹仕留める毎に、レベル限界を一つ突破できるのだ。

 出現率は低いが、一ヶ月もこのダンジョンに籠もればそれなりの数を倒せるはず。


 さあ、目指す強さは邪神をワンパンできるレベル。

 生きるために、死ぬ気でやって行こう!!


 と、息巻いてみたは良いものの……。



「全ッ然見つからん!!」



 先程からリミットラットはおろか、プラチナ系モンスターすら見かけない。


 俺はカッパー系やシルバー系、ゴールド系のモンスターをこまめに狩りながら、ダンジョンの中を徘徊する。



「うーむ、イマイチどれくらいのレベルなのかさっぱり分からんな……。この世界にレベルを測定するアイテムでもありゃあ良いのに」



 レベルの概念が存在することは間違いない。


 カッパー系やシルバー系のモンスターを仕留める度、身体の奥底から力が湧いてくるのだ。

 多分、これがレベルアップしているという感覚なのだろう。



「それにしても、ドロップアイテムが意外と嵩張るな……」



 ダンジョンではモンスターを倒すと、アイテムをドロップする場合がある。


 ダンジョンに入って、もう何体もモンスターをしばいているが、すぐにアイテムを持ち切れなくなってしまった。



「闇の古代魔術……影……できるかな?」



 俺は魔力を意識し、術式を弄る。



影収納シャドウスペース――ッ!! お、できた!!」



 自分の影を入り口として異空間を生み出し、アイテムを仕舞えるようにした。

 ゲームでよくあるインベントリを、闇の古代魔術で再現したのだ。


 多分成功するだろうなとは思っていたものの、ここまでドンピシャとは。



「へへ、これでアイテムの運搬は考えなくて良いな!! あとはプラチナ系モンスターとリミットラットを狩りまくるだけだ!!」


「キュ?」



 ん? あ、いた。



「プラチナスライムだ!!」


「キュ!!」



 ラッキーにラッキーが続いている。

 俺はプラチナスライムを倒して大量の経験値をゲットするべく、駆け出した。


 しかし、モンスターも馬鹿ではない。


 殺意を持って駆け寄ってくる俺から逃れようと、全力で逃げ出した。


 俺も必死に追いかける。



「逃がすかぁ!! 影繰りシャドウコントロール!!」



 俺自身の影を伸ばして、プラチナスライムの捕縛を試みた。


 途中で曲がり角にでも入られたら見失ってしまうが、幸いにもここは一本道。

 俺の影はプラチナスライムに追いすがり、捕獲することに成功した。



「捕まえた!! くっくっくっ、おら!! 経験値寄越せ!! それが嫌なら経験値を寄越せ!! それも嫌ならお前が経験値だ!!」


「キュ!? キュキュ!!」


「ん? 命乞いか? 残念だったな。俺は命乞いする奴を殺すのが大好きなんだ!!」



 完全に悪役の台詞だが、実際に悪役なので問題は無かろうなのだ。


 俺はプラチナスライムに影で作った剣を何度も突き立て、その命を奪う。



「おっほおおおおおッ!!!! しゅごい!! 経験値入ってくりゅうううううううッ!!!!」



 凄まじい量の経験値により、俺は一気にレベルが上がった。


 魔力も筋力も、全てのステータスが成長しているのも分かる。



「はぁ、はぁ、これがレベルアップの快感……。病みつきになりそうだ」



 俺は予定通り、一ヶ月くらい金属ダンジョンに籠もってレベリングに励むのであった。









「ふん!!」



 ただの拳で、防御力が高いはずのプラチナ系モンスターを粉々に粉砕する。


 俺はすでに人間の限界に到達し、超越した。


 一ヶ月もダンジョンに籠もってモンスターを狩り続けた成果である。

 リミットラットも数百匹仕留めたため、俺のレベルは300前後だろうか。


 ある程度レベルが上がると、攻撃力が高くなり過ぎて金属系のモンスターにも普通にダメージが通るようになった。


 ベテランの戦士が大体レベル50くらいとすると、既に人間を辞めていると言って良い。


 しかし、邪神をワンパンするには物足りない。

 せめてもう一桁強くなりたいが、そろそろ普通の食べ物を食べたくなってきた。



「うーん。流石に朝昼晩、毎食スライムゼリーは飽きるぜ」



 金属ダンジョンには、スライム系の金属モンスターが出やすい。


 そして、スライム系のモンスターはスライムゼリーを高確率でドロップするため、ここ一ヶ月ずっとスライムゼリーを食べて過ごしているのだ。


 もう身体がスライムになりそうである。



「そろそろ、一旦外に出るか」



 俺はレベリングを一時中断し、ダンジョンの出入り口へと戻った。


 そして、扉を開いて外に出ると――



「リクス!!」



 何故かユリーシアが外で待っていた。


 普段のドレスではなく、鎧を身にまとったレアな格好である。


 見れば姉上の部下である騎士たちも数人いた。



「あれ? 姉上? なんでここに?」


「なんで、ではありません!! どれだけ心配したと思っているんですか!! 貴方の行方を一ヶ月も探し続けたのですよ!!」



 あー、なるほど。


 どうやら俺が行き先を告げずに失踪しちゃったせいで、帝都では大騒ぎになっているみたいだ。


 そして、ユリーシアがちょうど俺の居場所を特定したタイミングでダンジョンから出てきた、と。



「怪我はありませんか? どこか痛いところは?」


「大丈夫ですよ、姉上。ちょっとレベリングしてただけなので」


「れ、れべりんぐ……?」


「あ、いえ。なんでもありません。散歩みたいなもんです」



 俺は笑って誤魔化す。


 このダンジョンの秘密を知られたら困るし、森を歩いているうちに迷い込んで、ようやく出られたということにしておく。



「とにかくリクスが無事で良かったです。フレイヤ様も心配していましたよ」


「……母上が?」


「はい。すぐに戻って無事を知らせに行きましょう」


「……うっす」



 実は、俺の中にあるユーヴェリクスの記憶が、少し言い過ぎたと感じていた。


 フレイヤ本人は、ユーヴェリクスを本気で皇帝にしたいと思っていたのだろう。

 しかし、その目がユーヴェリクス自身を見ていなかった。


 それがユーヴェリクスの中ではどうしても引っかかっていたせいで、この前は言い過ぎてしまったのではないか。


 ……まあ、気にしても仕方がない。


 まずはヴァレンティヌス城に戻って、対話を試みよう。コミュニケーションは大切だからな。


 その時だった。



「っ、姉上!! すみません、少し失礼します!!」


「え? ちょ、リクス!? どこへ!?」


「悲鳴が聞こえました!!」



 俺のレベルが大きく上がったことで、五感が鋭くなっている。

 その俺の耳が、少女の悲鳴を拾ったのだ。


 かなり離れた場所だが、今の俺の身体能力なら何とかなるだろう。



「は、速ッ!?」



 ユリーシアが俺を追いかけてきたが、レベルが段違いなのですぐに引き離してしまう。


 そうして森を駆け抜けること、数分が経った。



「いた」



 何やら大きな荷車を引いている男性と、俺と同じくらいの年頃の少女が一人、大型の魔物に襲われているようだった。


 俺は影繰りシャドウコントロールを発動し、魔物の身動を封じる。


 レベルが上がったお陰もあってか、俺の魔術は出力が上がっている。

 ただの影繰りでも、全力を出せば――



「ギャギャ!?」



 グチャッと潰れて肉片になる。


 俺は魔物の死骸を影収納シャドウスペースに収めて、襲われていた二人の前に出た。



「お父さん!! お父さん!!」


「ぐっ、うぅ……」


「チッ。重傷だな」



 どうやら手遅れだったらしい。

 子供は怪我一つ無いが、父親と思わしき男性はかなりの深手を負っていた。



「やだ、やだよ、お父さん!! あ、あの、誰か分かりませんけど、助けてください!!」


「こ、こら、無茶を言うんじゃ、ぐっ、ないよ」


「駄目!! お父さんは喋らないで!!」



 ……まずいな。


 俺は治癒系の魔術をまだ使えない。しかし、このままではこの男は死ぬ。


 なら、何とかしないと。


 俺は術式を弄り、魔術を発動する。



「安心しろ」


「え?」


「君のお父さんは、俺が助けるよ」



 やることはシンプルだ。


 影繰りを使って、傷口を塞ぐ。

 ただ傷を塞ぐのではなく、切れた血管と血管を針で縫うように繋いで、出血を防ぐのだ。


 これで多少の延命に繋がるはず。


 しかし、いくら出血を抑えたとしても傷口は塞がるものじゃない。



「はぁ、はぁ、リクス、何を――これは!?」



 そして、ようやく俺に追いついたユリーシア。



「ユリーシア姉さん!! 治癒ポーションを!!」


「は、はい!!」



 傷口を塞いだ状態で、ユリーシアから受け取った治癒ポーションを男に飲ませる。


 すると、みるみる男の傷口は塞がった。


 もう影繰りを解除しても問題は無いだろう。



「う、うぅ、私は、助かったんですか?」


「ああ。でも、血を多く失ってる。しばらくは貧血で動けないだろうし、無茶をするなよ」


「ど、どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます。高貴な御方とお見受けしますが、お名前を伺っても?」


「名乗るほどの者じゃない。……そんなことより、隣で不安そうにしてる娘を抱き締めてやったらどうだ?」


「あ……」



 男も娘が涙目となっていることに気付いたのだろう。

 ハッとして娘を抱きしめた。



「お父さん!! お父さん!!」


「すまない、レティシア。心配をかけたな」


「ううん!! 良かったぁ!! 私、お父さんが死んじゃうかと思って……ぐすっ、ひっぐ」


「こらこら、助かったのに泣くんじゃないよ」



 イイハナシダナー。……ん? レティシア?


 そう言えば、『光の勇者と五人の聖剣乙女』にもそんな名前のキャラがいたな。


 たしか村で採れた野菜を売ろうと帝都へ向かう途中、魔物に襲われて目の前で父を殺されてしまったヒロインがいたはず。



「……失礼。お二人はどこの村の出身で?」


「あ、私たちは森を抜けて、山を三つ越えた先にあるエシレ村から来ました。村で採れた野菜を帝都で売ろうと思いまして」



 ちらりと荷車を見れば、新鮮そうな野菜が沢山積まれていた。


 あー、えっと、これはもしかしなくても……。


 今度は少女を見た。

 俺と同じ年頃、つまりは主人公と同じくらいの年齢で、桃色の髪と瞳の美少女だった。


 髪と瞳の色が、ゲームのヒロインと完全に一致している。


 ま、間違いない!!



「あのっ!! ありがとうございました!! お父さんを助けてくれて、本当にありがとうございます!!」



 五人のヒロインの一人、レティシアだ――ッ!!



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