第3話 悪役キャラ、言いたいことを言う



 古代魔術書の解読を始めて数日が経った。


 俺は未だに、侍女や兵士たちから恐れられる毎日を過ごしている。


 まあ、古代魔術を習得しようとしてるなんてバレたら一大事だ。

 俺の部屋に誰も近寄ってこないのは、幸いかも知れない。



「……なるほど。闇の古代魔術は、影を操ることができるのか」



 そして、俺は闇の魔術を習得し始めていた。


 初歩的な魔術だが、闇の魔術の基本とも言える魔術。



影繰りシャドウコントロール――ッ!!」



 魔力を込め、紙に魔術式を書いて魔術を発動。


 すると、俺の影が浮かび上がった。

 まだ自由自在に操れるとは言えないものの、ある程度思ったように動かせる。


 敵の足止めや撹乱にはうってつけの魔術かも知れない。


 何より恐ろしいのは、闇の魔術は汎用性が高いということ。

 術式を細かく調整することで、影で剣や槍を作ることが出来るのだ。


 俺自身、終盤のボスということもあってかスペックが高いのも影響しているだろう。



「これなら武器要らずで魔力が尽きるまで戦えるな!!」



 身体にまとわせれば、防御力を高めることが出来るし、良いところしか無い。


 流石はゲーム終盤で手に入る魔術書である。


 ゲームではここまで便利なものってイメージは無かったが……。

 まあ、得をしたと思っておこう。



「……チッ。もう食事の時間か」



 俺は舌打ちをしながら、部屋を出る。


 向かう先はヴァレンティヌス城の一角にある皇族用の食堂。

 皇帝の家族は毎日ここで食事をするのだ。


 面倒ったらありゃしないが、食事をブッチしてまで何をしてるのかと怪しまれたら困る。


 俺は仕方なく、食堂へ向かった。



「あっ」


「あ、リクス……」



 食堂に入ると、先に待っていたユリーシア姉さんと目が合う。


 ものすっごく気まずい。


 俺が前世の記憶を取り戻した切っ掛けは彼女だが、前まで悪さをしていたことが罪悪感となって話しかけづらい。



「おはようございます、姉上」


「……おはようございます」



 短く挨拶を交わし、俺も席に座る。



「おはようございます、ユーヴェリクス様。ユリーシアもおはよう」


「おはようございます、お母様」


「……おはようございます」



 やがてユリーシアの母、クラリスが食堂へやって来た。


 綺麗な金髪碧眼をしており、その容姿はフレイヤにも負けず劣らずの美女であった。

 おっぱいに関しても中々の大きさである。


 クラリスが俺の方を一瞬ちらりと見たが、何も言わない。


 最近は俺が返事するからか、驚いているようだ。



「……フン」



 そこから更に遅れて、俺の母ことフレイヤとやって来た。


 しかし、クラリスとユリーシアに挨拶するつもりは無いらしい。

 鼻を鳴らした後、俺に挨拶してきた。



「おはよう、リクス。良い朝ね」


「おはようございます、母上」



 そして、最後に食堂へ入ってくる男が一人。


 俺やユリーシアと同じ銀色の髪の美形な長身イケメンである。


 この男の名前はフレデリック・ド・ヴァレンティヌス。

 ヴァレンティヌス帝国の皇帝であり、俺とユリーシアの父親である。



「皆、揃っているようだな。食事を始めよう」



 食事が始まるものの、会話は無い。


 運ばれてくる料理を黙々と食べながら、ただ時間だけが過ぎていく。

 料理が美味しいだけに、なんか勿体無い気がして仕方がない。


 時折、フレイヤがフレデリックに話しかけるが、フレデリックはフレイヤに興味が無いらしい。


 ユリーシアやクラリスを気にかけては食事をしている。

 なるほど、正妻を蔑ろにして側室にばかり構う皇帝、か。


 そりゃあ、フレイヤからすれば面白くないよな。



「……ところで、ユーヴェリクス」


「……何か?」



 しかし、今日は珍しくフレデリックが俺に話しかけてきた。


 いつもは目すら合わせないのに。


 どういう風の吹き回しだ?



「最近はやたら大人しいが、何か悪いことを考えているのではあるまいな?」


「……」



 あー、うん。なんだろうね。


 俺の中にあるユーヴェリクスとしての記憶が喜んでいる。

 無関心な父に、関心を持ってもらえたからか。


 しかし、あまり喜べない。


 子供を愛称で呼ぶことすら無く、咎めるような目で睨むフレデリックに苛立ちが湧いてくる。



「言う必要が、ありますか?」


「……何?」


「リクス!!」



 フレイヤが俺を怒鳴るものの、気にしない。


 父は俺の物言いが勘に触ったのか、鋭い目で俺を睨んできた。



「それは、どういう意味だ?」


「どうも何も、今まで大した関心なんか抱いて無かったくせに、興味を持ったと思ったら悪さをしていないか、なんて。父親の台詞とは思えませんね」


「……」


「あっ、失礼しました。父ではなく、皇帝陛下ですね」



 何故か分からないが、言葉が止まらなかった。



「正直、この意味の無いなんちゃって家族団欒にはカスほどの興味もないんです。ちょうど良いので、俺はこれから自分の部屋で食事するようにします」


「……そう言えば、私がお前に関心を持つとでも?」


「持たないでしょうね。側室にばかり構って正妃を蔑ろにする皇帝なんですから」


「っ、ユーヴェリクス!!」



 俺の物言いに激高し、フレデリックが怒鳴る。



「ああ、怒られましたね。昔は父上に怒られるだけでも嬉しかったのに、不思議な気分です。今は反吐が出る」


「リクス!! やめなさい!!」


「止めませんよ。母上も母上です。くだらない復讐に俺を巻き込まないでください」



 それだけ言い残して、俺は食堂を出る。しかし、フレデリックが俺を呼び止めた。



「待て!! どこに行く!!」


「言う必要は無いです。皇帝に逆らった罪で処刑しますか? したいのならどうぞ。やったら最後、父上は息子を殺した帝王として歴史に名を刻むでしょうが」



 あーあ、言っちゃったよ。


 言いたいこと全部言っちまった。

 ま、これならしばらく家出しても問題無いよな。


 俺はその足で、ヴァレンティヌス城内にある兵舎へと向かった。

 馬を借りるためだ。



「おい、そこの兵士」


「あ? ゆ、ユーヴェリクス殿下!? な、何故このような場所に!?」


「馬を借りに来た。適当に一頭寄越せ」


「え、えーと、その、今は兵団の演習で馬の数が少なく……」


「俺の命令が聞けないのか?」


「は、はっ、すぐに用意します!!」



 こういう時、悪役キャラとしての立場は役に立つね。

 多少のわがままが通るんだから。


 俺は馬に跨がり、兵士に礼を言った。



「すまん、ありがとう。誰かに何か聞かれたら、俺が馬を奪って出て行ったと言っておけ」


「え? あ、は、はい」


「じゃあな」



 ヴァレンティヌス城から離れ、帝都の近くにある、とあるダンジョンへ向かう。


 強くなるためには魔術書の勉強だけでは駄目だ。


 効率的なレベリングをする必要がある。

 俺が挑みたいダンジョンは、それにまさにうってつけの場所だ。


 馬に乗って駆けること数時間。


 俺は帝都の郊外にある、大きな森の奥地へとやって来た。



「金属ダンジョン……。やっぱり、ゲームと同じ場所にあったな」



 通称、金属ダンジョン。

 経験値が馬鹿みたいに貰える金属系モンスターのみが出現するダンジョンである。


 本来はストーリークリア後に解放される要素だが、問題無い。



『汝、何を願う者か』



 ダンジョンの入り口に立つ石像が、問いかけてくる。

 このダンジョンは合言葉を言うことで挑めるようになるのだ。


 まあ、ゲームではいくつものクエストを経て条件を達成する必要があるが……。



「我、更なる強さを欲す」



 そう言うと同時に、ダンジョンの扉がゴゴゴゴゴと開いた。


 さて、生きるために死ぬ気でレベルを上げようか。

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