第4話ある種の図太さ

僕は、人によく気を遣うタイプ。気配りは大事だが、僕は病的に気配りのタイプ。

だから、人が口に出す前にそれを見越して動く。それが、先輩ならまだしも後輩にも気を使っていた。現場の責任者の時は、監督はただ見守り膨大な書類と格闘して置けば良いものを、仕事前に書類をあらかた完成させて、作業員がミスしないように、揚荷のチェックや、または休憩時の缶コーヒーを買っていた。

作業員は僕と仕事をすることを喜んでいた。

しかし、怒鳴り散らして怒ったこともあった。

何故なら、ミーティングで自己紹介したのに、今夜の監督は誰?と、作業員に他の会社の監督が尋ねると、知りませんと言って困らせた言葉があった。

僕はそいつに、帰れっ!と、言ったもんだった。

すぐに僕は言い過ぎたかな?と、反省し、僕のコミニュケーション不足と考えて、次から書類とチェックと、見回りをするようになった。

現場監督はそこまでは仕事ではないのだ。

作業員が自ら動かないといけないのだが、僕は作業員を信用できなかった。

貿易船から木材を揚げた時、隅に「Tokyo」と書いてあった。

東京揚げを名古屋で揚げていたのだ。作業員に聞くと、「さっき、揚がってきました!」と、寝ぼけた事を言う。僕はカチンときて、

「バカヤロー、ここは名古屋だぞ!揚がってきたら、直ぐにチェックして船にもどせよ!」

と、毎晩、出来の悪い作業員を上司がワザと僕のチームに入れるので、もう疲労困憊。

最後らへんは、怒る気も起きなかった。

なんで、作業員の指導まで僕がしなきゃならんのだ。

神経が図太い人間なら、上司に文句言って人間を替えてもらう事も出来ただろうが、僕は作業員のミスもフォローしながら、自分の仕事をするようになった。

そして、上司は言う。

「お前は、仕事が一番出来ないんだから、休みは夜勤明けだけでいいだろ?」

僕は今コイツの顔を見ると殴りたくなるが、こっちが断っても仕事をさせたので病気になった。

また、夜勤の前に書類を準備すると、日勤しかしない同僚達が楽な仕事を終わらせ、書類室で談笑して、作業中の僕に「灰皿を取ってくれ」と、言われたのにブチ切れて、灰皿を投げて渡した。

楽な仕事しかしない同僚を憎たらしく思っていた。

どうやら、この会社はボクには合わない。と、感じた。ろくに、英会話も出来ないクセに貿易事務の会社に入るとは、笑えてくる。

コイツらが、英会話出来ないから、外国人の一等航海士と折衝する事の多い船の責任者になったのだ。

コイツラみたいに、楽な日勤ばかりして、僕みたいに日勤をしながら夜勤もして僕が書類と格闘しているのに、灰皿を持ってこさせようとする神経の図太さ、無神経さがあれば病気しなかったかも知れない。

そこんとこ、どうだかね。

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