転生したらゾンビでしたが

第13話 一騎打ち

　魔王軍の陣地、その中央に立つは魔王軍団長とその側近副団長。

　師匠と俺は、それぞれ分かれて一騎打ちを申し出た。

　「私は、ポーラ帝国の指揮官ファイギル。魔王軍団長フェルザントに一騎打ちを申し込む！」

　師匠は、敵陣地の中央で堂々とそう宣言した。

　俺たちを取り囲む魔族たちは、攻撃を仕掛けてこない。短い時間で、戦線を突破してきた俺たちにはまともに勝てないと分かっているようだ。

　そして、師匠の言葉に応じたであろう魔族が陣幕から出てくる。

　「我が名は、フェルザント。魔の森の、防衛を任せられている魔王軍団長そのものである。ファイギル、その勇気を称え一騎打ちを受けよう」

　大きな体を持つ彼は、魔族と魔物の間に位置するような容姿であった。魔族特有の美形ではないが、魔物のように異形でもない。そして、彼はその大きな体を武器に戦う戦士だろう。

　師匠と彼は、その場から離れると少し遠くで戦闘が始まった。

　彼が一騎打ちを受けるならば俺も宣言しなければならない。

　大きく深呼吸し、一騎打ちを申し込む。

　「俺は、ポーラ帝国指揮官の一人にしてファイギルの弟子ケントだ。魔王軍副団長ジャックに一騎打ちを申し込む！」

　言い終わると、陣幕からまた一人の男が現れた。

　「私の名前は、ジャック。貴方の誘いを受けましょう」

　俺の呼びかけに答えたのは、ジャックという魔王軍副団長だ。メガリアさんから事前に、情報は得ていた通りかなり手強そうだ。

　「さて、始めましょうか」

　「その前に、俺は召喚魔法を使えるんだが卑怯とは言わないでくれ」

　「そんなことですか、問題ありません。すべて凍らせるだけです」

　「感謝する」

　召喚が問題ないなら、トールマンを呼ぶことができる。

　だが、そのタイミングは見極める。下手に出して、魔力が無くなっては意味がないからな。

　「それでは、これが落ちた瞬間から始めるとしましょう」

　そう言って、ジャックは手に持っていたワイングラスを空へと放り投げた。一秒、二秒、三秒。

　――パリンッと割れた瞬間、戦闘は開始した。

　「氷結雪崩（アイスシングウェーブ）！」

　「炎爆裂（エクスプロージョン）！」

　事前に聞いていた情報は、間違っていないらしい。ジャックは、本当に氷系魔法を得意としているようだ。

　もちろん、上級の氷魔法には上級の炎魔法をぶつける。

　「――!まさか、上級を扱えるほどとは。ならば……！」

　氷結雪崩（アイスシングウェーブ）と炎爆裂（エクスプロージョン）が相殺され、微かに霧が生まれる。ジャックは俺の隙を狙うように、霧に紛れながら近接攻撃を仕掛けてきた。

　「近距離！？……流石に、予想外だった。あぶねー」

　ジャックは、氷槍（アイシングランス）を右手に纏わせ剣のようにそれを振るった。なんとか、後ろへと飛び回避できたが危機一髪だ。

　相手が、そう来るなら。こっちも、剣を出すとするか。

　「鎖剣（チェーンソード）、展開、防御！」

　「その魔法は……!?」

　「知ってるのか？」

　俺の口から出たのは、単純な疑問。師匠も知らない、系統の魔法で俺も感覚で使っている魔法の一つだ。

　「異系魔法だ、私の魔眼（まがん）解（アナライ）はそう分析した。そして、私自身聞いたことがある魔法だ」

　「それ本当か？」

　鎖剣（チェーンソード）と、氷槍（アイシングランス）による斬りあいをしながら俺は疑問をぶつけた。

　「ああ、魔王国に伝わる魔法さ。冥途の土産に持っていくがいい！」

　この雰囲気、魔法？いや、魔術が来る。それも、この魔力の動きの量は最上級魔法だ。

　「トールマン召喚（けいやくしょうかん）」

　恐らく飛んでくる魔法は、氷系魔法の最上級魔法絶対零度（アブソルトゼロ）。俺は、複数の魔法を同時には使えない。だから、トールマン召喚（けいやくしょうかん）を使って絶対零度（アブソルトゼロ）のダメージを抑える。そして――

　「氷よ、全ての生命を停止させる術を与えよ。絶対零度（アブソルトゼロ）」

　「彼方（かなた）の空（そら）！」

　「炎爆裂（エクスプロージョン）」

　絶対零度（アブソルトゼロ）は、行使した者の周りに存在する生命の体温を奪い一瞬にして凍らす。そして、俺は今ジャックに言われて気づいた異形魔法の、上級に値する魔法である彼方（かなた）の空（そら）を行使した。

　絶対零度（アブソルトゼロ）は行使した本人すら数秒は動けない。まさしく、必殺の魔法だが彼方（かなた）の空（そら）は、全てのダメージを一時的に体の一部分に蓄積させる魔法だ。俺は、この魔法を使って左手にダメージのすべてを移した。それに、トールマンの炎爆裂（エクスプロージョン）によってダメージ自体もかなり抑えられている。

　これぐらいなら、後から師匠に治してもらえるだろう。

　つまり、この瞬間動けるのは俺だけ。

　「情報、ありがとよ。ジャック」

　「ふ、最期にこの魔法を見て研究者として、後悔はない」

　「死の接触（サクリファイス）」

　魔法は決して万能ではない、今回の勝利はメガリアさんの情報のおかげが大きいだろう。

　次に戦って、勝てる保証はないな。

　「にしても、ダメージを移してなかったら全身が凍傷するどころから凍死してもおかしくない魔法だったな」

　とりあえずは、俺の魔法で応急処置だけはしておこう。

　「師匠のことを、待っておくとしよう」