第8話 ノーマン・フェルドン
私がまだ16歳のときよ。
上級魔物も、簡単に倒すことは出来ずに相性が悪ければ負ける可能性だってあったわ。
あれは、私が人生で初めて死を覚悟した瞬間だった。
ゴブリンの群れを率いる上級の魔物ゴブリンキングと対峙し、私は前哨戦であるゴブリンとの戦いで魔力は底をつきゴブリンキングと戦うのは絶望的だった。
「大丈夫ですか?」
そんなときだった。男か女かも分からない中性的な声が後ろから聞こえた。
「あなたは?」
「私?私は、ノーマン・フェルドン。自分で言うのもなんだけど、最強の死霊術師だよ」
最初は何を言っているのか分からなかった。名前も聞いたことはなかったし、最強を名乗るならそれなりの知名度が伴うということぐらい冒険者だけでなく一般常識として誰もが持っていた。だから、私もあまり期待はしていなかったの。
彼女の容姿は、黒い髪に青く透き通る瞳を持っていたわ。背丈はとても低く、幼く少女のように無邪気な雰囲気を感じたわ。着ていたのは、黒を基調とした質素な制服で珍しい恰好だった。まさか、あの小さな少女の姿で死霊術師だなんて予想できなかったわ。でも、その考えが甘いものだってことにすぐ気づかされた。
「じゃあ、助けてくれる?」
期待はしていなかったけど、私は彼女に助けを求めた。
「おっけー、じゃあ死んでくれるかな、ゴブリンキングさん?
「――!?」
彼女は軽くそれを承諾すると、先ほどまでの明るい表情から一変してゴブリンキングを睨みつけ「死んで」と暴言を吐いたわ。あの姿から出た言葉に私は、驚きを隠せなかったし、そのあとに彼女が行使した最上級魔法の
私が苦戦していたゴブリンキングを、一瞬にして殺したの。ゴブリンキングは、身体の穴という穴から血を垂らしながら最終的に干乾びるように死んでいったわ。その表情は、苦痛に満ちていた。
それを見て、彼女は何も無かったかのように話し出した。
「お姉さんのことを教えてよ?」
「そうね……私は、アストロン・ファイギル。ただの冒険者よ」
「ふーん、そうなんだ。私は、別大陸出身なの」
感情を何も感じさせないような笑顔で、私に語り掛けてきた不気味な少女。それが、私のノーマン・フェルドンに対しての初見の感想だったわ。
私はそのときから、彼女と過ごすようになったの。彼女は、「この大陸のことを教えてほしい」と言って、私はそれを承諾した。
そうね、本当に長い間のようで一瞬だった。
彼女は転移魔法という座標と座標を繋ぐ魔法を研究していたら、見知らぬところに来てしまった、と。もちろん、はじめは信じていなかったのだけど私の知らない魔法や魔術理論、未知の言語などを知っている彼女のことをいつしか別大陸から来たと信じることにした。
それに、彼女が言うには、この大陸も元いた大陸でも言語は同じで意思疎通もできるらしいの。そんなこともあって、私と彼女の間には確かに強く結ばれた信頼関係が生まれた。
元々、私は聖王国の公爵である両親との間で生まれた子だった。両親は、私を愛しそして私に自由をくれたの。跡を継がせようと勉強や訓練などを無理強いをすることもなかった。
今思えば、どうしてあんなに優しくしてくれたのかを考えるべきだったと後悔してもしきれないわ。
私はフェルドンと多くの地域を巡った。その頃には、冒険者としての名声なども上がっていて聖王国から王宮への正体が届いたの。
私は、良心への今までの恩返しにちょうど良いと思って期限付きでその誘いを快諾したわ。今まで両親に貰ってきたものを少しでも返そうと思って。
でも、それは失敗だった。
今の聖王国は、実質国王の独裁状態なの。でも、昔は違ったわ。貴族と国王、それぞれに権力が分散していた。じゃあ、なぜ今の聖王国は国王が圧倒的な権力を握っているのか。それは、力ある貴族を粛清し国王に権力を集中させたから。
今の代の国王は、ちょうど私が生まれた年に即位したわ。両親が、私を自由にしてくれたのは国王に殺されることを知っていたからでしょうね。いえ、あくまで可能性を考えて私を国の中心から離そうとしていただけかもしれないわ。
でも、そんな両親の思いに私は気づくことができず、ついには王宮に来てしまった。フェルドンという両親以外で唯一、心を通わせていた人を連れて。
その先は――嫌な思い出だわ。
「ねぇ、ファイギル。本当に、行くの?」
「ええ、私の心残りだった両親にも会える良い機会だと思うの」
「そうか、じゃあ私は君の意見を尊重するよ。それじゃ、行こうか」
フェルドンは、王宮の前でそう私に言ったわ。何か、嫌な予感でもしたのかもしれないわね。
この先で起きる、凄惨な出来事を。
「アストロン・ファイギルです」
「ファイギルの友人、ノーマン・フェルドンです」
「私は、聖王国の国王を任せられている、ジェイル・ドグマだ。すまないが別室で待っていてくれるか?」
「かしこまりました」
彼に会ったときの印象は、とても良かったわ。誠実で、優しそうだった。私は、彼に言われた通り別室へと通されそこで待つように言われたの。
「ねぇ、ファイギル。ここ、どう考えてもおかしいよ」
「フェルドン、何か気になることでもあったの?」
フェルドンは、このときにあることを伝えようとしていたわ。
「気になるってどころじゃない、私は別大陸で見たことがある。あの王は、何かを隠してる。それに、もし本当にあの王が隠し事をしているなら...王宮全体を魔法を阻害する魔石で囲うこと自体――」
「流石に、考えすぎよ」
あのときの私は、フェルドンのことを心配性だと思っていた。私は、国の運営に興味もなかったし、今まで人を殺したこともなく、殺すことを想像することも出来なかったわ。当時は、まだ若かったから。思慮不足だったのよ。
その点、フェルドンはとてもよく見ていたわ。
「失礼します、暇をさせては悪いからお菓子でもどうだ、と国王様からです」
「ありがとう」
「それでは、私はこれで」
メイドが、お菓子を持ってきたの。さすがの私も、違和感を感じた。
「このお菓子から、魔石の気配を感じる」
「ファイギル、これで分かっただろう?」
「そのようね、国王は私たちを殺そうとしている」
魔石の効果は分からなかった、でも食べ物に混ぜる魔石なんて、毒以外のわけがない。
私は、フェルドンに謝るとすぐに王宮を出るために部屋の扉を壊したわ。
「さぁ、ここから出ましょ――」
扉を壊した先には、聖王国の近衛騎士団が陳列していたわ。きっと、毒を飲んだあとにとどめを刺すつもりだったのでしょうね。
「警戒しておいて、正解だったよ。
「あら、ずっと魔力を練っていたの?」
「うん、そうする価値はあった」
フェルドンは、王宮に入る前から魔法阻害の中、魔力を練り続けてこの瞬間を待っていた。
「トールマン、頼んだよ」
「御意」
召喚されたばかりのトールマンは、すぐさま状況を理解し私たちを王宮から逃がす手伝いをしてくれたわ。もちろん、近衛騎士団は強かったけど冒険者として経験を積んでいた私たちはそのまま包囲を突破して王宮を後にしたわ。
でも――フェルドンは、王宮に引き返したわ。
「君の両親を助けてくる、私を信じて待っていて」
「だったら、私も――」
「だめだよ、ファイギル。ごめんね、飛んだ先でまた会おう」
私も、彼女に付いていこうとしたわ。でも、彼女は私に転移魔法を使って一人で王宮へと駆けて行った。
私が飛ばされたのは、ポーラ帝国でその一週間後のある一報で知ったの。聖王国で、私の両親を含めた多くの貴族が死んだこと、そしてフェルドンが死んだことを。
「私が知っているのは、ここまでよ」
そして、師匠の話は終わった。
「ねぇ、トールマン。フェルドンは、"私の両親を助けて戻ってくる"って言っていたわ。お願いよ、彼女はどうなったのか教えてくれない?」
「ファイギル殿、貴方にとってきっと辛い話になるかと――」
「いいわよ、それでも聞きたいの。彼女の最期を」
師匠の真剣な眼差しに、覚悟を決めたのかトールマンはフェルドンという師匠の仲間だった少女の話を始めた。
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