第7話 目覚め

 目の前は、真っ暗で何も感じない。

 俺、また死んだのか?


 ふと、そんなことを考えてしまう自分が嫌いだ。俺が死んでたら、師匠も無事ではないかもしれないのだから。

 少しずつその暗闇は薄れていき、徐々に光を取り戻す。


 俺の手が、冷たく優しい手に握られている。師匠の手だろうか。


 その光は、眩いものへと変わっていき、俺は目を覚ました。


 「う、こ...ここは」


 「ケント!良かった...起きたのね」


 「し、師匠!?」


 いきなり、師匠が抱きついてくる。寝起きに、このインパクトはもう忘れられないな。


 「私とのハグは嫌かしら?」


 俺の懐へと入ってきた師匠は、顔を上げ俺にそう問いかけてくる。ぐぬぬ、可愛い。上目遣いをここまで上手に使っている女性は、師匠以外に見たことはない。

 

 ええい、構うな。師匠が先にしてきたんだ、こっちだって思う存分楽しんでやる。


 「師匠、大好きです!」


 「えええ!?」


 有無を言わさずに、俺はすぐにハグを仕返しする。

 師匠は初心らしい反応を見せたが、驚いただけだろう。まぁ、俺はそんな奥手ではない。ご褒美はもらえるときに貰っておく、それが俺の流儀だ。


 「って、師匠?」


 師匠はさっきまでは腰にあった手を離し、俺のことを押してハグを解いた。馬鹿な、こんなはずでは。

 でも、師匠だって嬉しかったはずだ。心なしか、少し頬を赤らめていた気がする。いや、やっぱり気のせいか?

 

 「ハグは、もうお終い。朝食を持ってくるわね」


 「は、はい」


 朝食ということは、丸一日ほど寝込んでいたということだろう。師匠のおかげで、なんとかなったんだな……。


 *


 「持ってきたわよ」


 俺の寝室へと再度入ってきた師匠は、また豪華な食事を準備していた。


 「こ、こんなに良いんですか?」


 流石にこれだけ高そうな食事を頂くのは、申し訳が……それに量もすごい。


 「病み上がりだし、全部は食べられないかしら?だったら、一緒に食べましょうか」


 「あ、そうですね。師匠と一緒に食べたいです」


 「ええ、そのつもりよ」


 「「いただきます」」


 こっちの世界には、「いただきます」や「ごちそうさま」という文化がなかった。師匠は、俺に合わせて言ってくれているだけで俺自身はどちらで良いと思っている。まぁ、それでも一人じゃないっていうのは安心する。

 俺が、一人になったときを想像すると今の状況が奇跡にも感じる。


 「そうだ、ケント。ゲオルグベアーをどうやって倒したの?私が見てた時は、鎖剣チェーンソードがあまり有効打になっていなかったようだけど」


 「師匠。グリフィンと戦いながら、俺のこと見てる余裕あったんですか?」


 「はじめはグリフィンが、やる気ではなかったのよ。だから、地系魔法で防御優先で行動しながら何かあれば助けようと思って……見てた」


 「は、はぁ。ゲオルグベアーは、俺が魔石を飲んでそれで」


 「なんの、魔法を習得したの?」


 「死の兵士デス・マンっていうんですけど」


 「死の兵士デス・マンで、倒したの?確かに、死の兵士デス・マンは運があれば強いゾンビや骸骨スケルトンを召喚できるけど...ゲオルグベアーに勝てる奴なんて……」


 「それのことなんですけど、骸骨魔導士スケルトンメイジのトールマンという魔物と契約をしました」


 「トールマン...と契約ですって!?」


 「す、すいません。契約したら、まずかったですよね」


 まさか魔物界では有名な危険な魔物なのか?でも、契約は破れば向こうだって大きなダメージがあるはず。そんな簡単に、嘘をつけるわけ。


 「まずいって、いいえ。とんでもないわ、これも運命なのかしらね。ケント、トールマンを呼べる?」


 「は、はい」


 怒られるかと思って身構えたけど、大丈夫そうで良かった。

 死の兵士デス・マンとは別に、トールマン召喚けいやくしょうかんという魔法が新たに刻まれている。おそらく、これを使えば召喚できるのだろう。

 

 「トールマン召喚けいやくしょうかん


 あのときと同じように、黒い霧が渦を巻きながら形を形成する。そして、霧が晴れ骸骨の影が見える。彼が、トールマンだ。


 「召喚感謝します、主」


 「主って、もう仲間なんだからそんなに硬くなくても」


 「いえ、これだけは変えられません」


 「そ、そうか」


 ほんとに、硬いんだよな。契約したんだから、もっと仲間らしくしてもいいのに。でも、違反ではないから俺はトールマンを尊重する。

 すると、それを眺めていた師匠がトールマンに話しかけた。

 

 「トールマン、久しぶりね」


 「あ、あなたはファイギル殿ですか?」


 「やっぱり、あなただったのね」


 「ファイギル殿、申し訳ございません。あのときは――」


 「ノーマン・フェルドン、彼女のことを忘れたわけではないようね?」


 ノーマン・フェルドンって、トールマンの前の主のことか?なんで、師匠がそのことを。

 

 「はい、もちろん忘れてなどいません。今度こそ守ってみせます。私も、あんな思いはもうしたくないのです」


 「それでこそ、トールマンね。ケントのことは、任せるわ。"何があっても"守りなさいよ?」


 「もちろんでございます、主を守るのは私の仕事ですから」


 ノーマン・フェルドンと呼ばれる人は、話の流れから察するに師匠も知っている相手なのだろう。それに、トールマンのことも師匠は知っているようだった。つまりは、かつての仲間なのか?


 「ケント、あなたにもこの事を話したほうが良さそうね。私も知りたいことがあるの。トールマン、貴方も聞いておきなさい。あれは、今から7年前――フェルドンに初めて会ったときのこと」



 

 「大丈夫ですか?」


 上級魔物であるゴブリンキングと戦っていたとき、男か女かも分からない中性的な声が後ろから聞こえたの――

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