第6話 死の兵士《デス・マン》

 「ウワアアァァ!!」


 大きな怒号を鳴らしながら、高速で向かってくるのは上級魔獣ゲオルグベアー。

 硬い体毛に覆われた数m級の巨大な身体は、まるで岩石のようだ。それが、車のようにまっすぐ突っ込んでくる。あぁ、思い出すな。


 ふと、前世で轢かれた暴走トラックを思い出す。鈍い音がなり、全身が砕けるのを感じた一瞬。今でも、思い出す。

 でも――あれに比べたら幾分かマシだ。今の俺には、師匠に教えてもらった魔法がある。


 「鎖剣チェーンソード、散れ」


 俺の魔法である鎖剣チェーンソードは、念じれば自在に動かすことができる。鍛錬を積んだ結果、心で念じるよりも声に出して命令を出したほうが楽なことに気づいた。それに、頭の中で3D空間を想像し立体的に鎖剣チェーンソードの軌道を考えるとその通りに動いてくれる。そう、今のように。


 今の鎖剣チェーンソードは、小さな剣が鎖のように連なった集合体だ。俺にできる限界の魔力を注ぎ込み、できる限り長く伸ばし大きくした鎖剣チェーンソードを散らした。これは、言葉のままの意味だ。

 鎖は環状の部品が連なったもののことを言うが、鎖剣チェーンソードも初めはそれに近い形状で環状の部品に刃物が付いただけだった。

 でも、今の鎖剣チェーンソードでは環状の部品は剣そのものだ。もちろん、剣というよりもダガーやナイフのように剣身は短い。それでも、本物の刃物であることに違いはない。


 それを宙で散らし、ゲオルグベアーの正面に配置した。


 「鎖剣チェーンソード、突撃」


 何十に分かれた剣は、軍隊のように徒党を組みながらゲオルグベアーの正面に向かっていった。俺が念じて動かしているのだから、表現は違うかもしれない。それでも、何十の剣がゲオルグベアーに向かっていくのを見ると動かしている実感は湧いてこない。


 「出し惜しみはなしだ」


 俺は、鎖剣チェーンソードが身体に刺さりながらも、怯まずに突っ込んでくるゲオルグベアーを見ながら全力で走った。幸いこの体になってから、眠気以外で疲れたことはない。出来る限り、師匠が戦っている戦場からゲオルグベアーを離す。

 そして、師匠がくれた魔収納鞄マジック・バックに入れておいた魔石を取り出し飲み込んだ。


 「ゴクッ」


 喉に針が刺さったような痛みが、走ったがそれも束の間。身体から、溢れんばかりの魔力が噴水のように湧き出てきた。


 ――"死の兵士デス・マン"


 身体の奥底からなぜか、浮かび上がる言葉。師匠の言った通りだったな、この感覚は核に刻まれている魔法を読むときと同じ感覚。

 師匠は、俺がはじめて魔法を使った日から午前は魔法の訓練を午後は座学を教えてくれいた。その中で、一番初めに教えられたこと。

 

 『あなたは、魔法の才能が溢れてる。でも、それは簡単に行使できるようになるような魔法ではないの。あなたの魔法は特殊なものが多いわ、きっとあなた自身の魔力の器が溢れたときに魔法を読み解くことができるはずよ。私も魔法を一気に認識して行使できるようなったことがあったのだけど、それは魔力が自分の器から溢れたときだった』

 ――『だから、もし死にそうなとき、大事な人を守りたいとき自分の力不足を感じたらこの魔石を飲みなさい。この魔石には、高濃度の魔力が詰まってるわ。きっと、あなたの器を溢れさせてくれるはず』


 魔収納鞄マジック・バックに入れておいて、良かった。

 どんな魔法なのか詳しいことは、分からない。でも、使うしかない。


 「今が、大事な人を守りたいときで力不足をかんじたときで死にそうなときだから!来い、死の兵士デス・マン!!」


 「召喚感謝する、新たな主、我が同胞」


 黒い霧が発生したかと思うと、すぐにそれは晴れ、そこから出てくるのは骸骨兵スケルトンソルジャーのはずだった。だが、それは見るからに異質だった。

 破れた黒いローブを着ているその骸骨スケルトンは兵士と言っても剣で戦うようなものではなかった。魔導士だ、魔法のみを扱う魔導士の姿だった。それに知性を感じる。

 

 「応えてくれてありがとう、俺も良く分からないけど主って言ってくれるんだったらあの熊を倒してくれないか?詳しいことは、そのあとに話したい」


 「かしこまりました」


 そう言うと、骸骨兵スケルトンソルジャー――いや一旦は骸骨魔導士スケルトンメイジとしておこうか。骸骨魔導士スケルトンメイジは、手を大きな身振りで広げ魔法を行使した。


 「氷槍アイシングランス氷槍アイシングランス氷槍アイシングランス氷槍アイシングランス氷槍アイシングランス


 それも、中級に値する氷槍アイシングランスを5回もだ。

 巨大な氷の槍が、骸骨魔導士スケルトンメイジの頭上に出現し「放て」と骸骨魔導士スケルトンメイジの号令と同時にゲオルグベアー目掛けて飛んでいきそのうち3本の氷槍アイシングランスはゲオルグベアーの前脚二本と横腹を貫きえぐった。


 もちろん、俺が召喚した骸骨魔導士スケルトンメイジが魔法を扱うときは俺の溢れ出る魔力を使っているため俺自身への負担も激しい。


 「ウウ..ウゥ」


 唸っているが、その目は死んでおらずなおも向かってきている。


 「嘘だろ、致命傷のはずなのに....」


 「突然変異のゲオルグベアーと分析する。主、全力を持ってゲオルグベアーの絶命を行います。主にお力添えをお願いしてもよろしいでしょうか?」


 「問題ない、全力で行くぞ。俺の骸骨魔導士スケルトンメイジ!」


 「鎖剣チェーンソード、再突撃!」

 「氷結雪崩アイスシングウェーブ!」


 鎖剣チェーンソードを魔石のおかげで復活した魔力を用いて追加で出現させ、そのまま動きが鈍っているゲオルグベアーの脳天目掛けて突撃をかけた。

 骸骨魔導士スケルトンメイジは、上級に匹敵する氷結雪崩アイスシングウェーブをゲオルグベアーを囲むように発動させると氷の牢獄に閉じ込めるおようにゲオルグベアーを封じた。


 しばらく経つと、ゲオルグベアーの生命活動が停止したのを感じ取った。


 「終わった...勝てた」


 「ゲオルグベアーの絶命を確認、主、私はどうすればよろしいでしょうか」


 「あ、あぁ悪い。多分、また召喚するよ。だから、今日はここで」


 「お待ちください!」


 師匠の元へと向かうため、魔力の消費が激しい骸骨魔導士スケルトンメイジを戻そうとするとすごい勢いで止められた。


 「主の魔力や時間がないのは、承知で申し上げます。私と正式に契約していただけませんか?」


 ――契約は、基本的に悪魔や天使と結ぶ魂の契りだ。

 有名なものは、悪魔と金を犠牲にして力を得た。天使と命を犠牲にして天国へ行った。とかよくあるようなものが契約だ。

 一応、少数ながら魔物だったりと契約することはあるらしいけど。

 師匠には、契約するべきではないと言われている。だからこそ、したくはない。俺は、馬鹿じゃないんだぞ。


 「私は、骸骨魔導士スケルトンメイジのトールマンと申します。数年前に、主であったノーマン・フェルドン様を失いそれからは、死の兵士デス・マンを行使した者の元へと何度か召喚されました。私は、新たな主である貴方にノーマン・フェルドン様を重ねました。あなたの友として、戦友として、そして仲間としてこれからもお仕えすることを許していただけないでしょうか。次の召喚で、私があなたの元へと来る保証はないのです」


約の内容は、俺が死の兵士デス・マンを行使した際にトールマンが召喚されるというものだ。 骸骨魔導士スケルトンメイジのトールマンと名乗る男は、俺に訴えかけるように話した。契

 師匠からも教えてもらったことがある、骸骨スケルトンは基本的に知性を持たず精々が時間を稼ぐ程度の存在だ、と。でも、数少ないながらも恐ろしく強い英雄級の骸骨スケルトンもいると。


 ――きっと、このトールマンはそのうちの一人だろう。


 「私の名を呼び、私の核と契約を結んでください。そうすれば、私は"今度こそ"主と認めた方を守ることが出来る」


 俺は、ただの高校生だ。危険なことは分かっている。でも、これからのことを考えた時にトールマンほどの存在が、いればどれだけ助かるだろうか。男は、ハイリスクハイリターンを取りたくなるのだ。

 師匠をこれからも守っていくためにも、俺は力が欲しい。


 「トールマン、これからもよろしく頼む。俺を、そして師匠を守る仲間として――」


 トールマンの誠意溢れる決意を見た俺は、彼を信じることにした。だから、彼の核と魂の契約を結んだ。

 そして、俺は魔力の使い過ぎによって眠気が限界に到達しその場で倒れるように眠った。

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