第3話 俺の魔法

 「おはよう、ケント」


 女性の声が聞こえる。まだ、眠たいんだけど。

 

 「もうちょっと……はッ!」


 ――あ、危ない。ここは、家じゃない。もう少しで、師匠に甘えるところだった。

 

 「ふふふ……」


 この声は師匠の、クソ……どうやら、聞かれていたようだ。自分でも、ここまで他人に聞かれるのが恥ずかしいものとは思っていなかった。


 「どう、して笑っているんですか。師匠?」


 「い、いえ。何もないわよ、朝食を準備したの。食べたら、早速魔法の修行を始めるわよ」


 「はい、分かりました」


 師匠は、そう言って寝室を後にした。外から見たら、物置小屋程度なのに中に入ればアパートの部屋よりも広い。師匠と俺の個室もあり、リビングまでも存在している。俺は、師匠が準備してくれたシルク製の服を着てリビングに入った。


 「いい匂いだ、おいしそう」


 現代に生きてきた俺でも、十分においしそうだと思える匂い。食欲をそそる香ばしい匂いだ。ワンプレートには、フワフワサクサクなクロワッサンのようなパンに加え、サラダ、コーンスープ、そして香ばしい匂いの正体であるステーキまであった。

 こんな料理、元の世界でなかなか食べられない。


 「さぁ、食べて。あ、この料理はここ数年、一人で食べていたから二人で食べるなんて久しぶりなの。だから、張り切って作ってしまっただけよ。遠慮しなくていいわ」


 「で、では遠慮くなく(いただきます)」


 手を目の前で合わせて、フォークとスプーンをぎこちなくではあるが使って食べた。ゾンビだからだろうか、味はあまり感じず少し残念だと思った。


 「どう?おいしい?」


 師匠はステーキを食べている俺のほうを向いて、あざとくそう問いかけてくる。その表情は、満面の笑みで正直に言ったら気分を落としそうだ、と思い「おいしいです」と答えた。


 「それは良かったわ」


 *


 数分後、朝食を食べ終えると師匠は皿を持つと魔術を発動させた。


 「清浄なものに包まれ、洗い流されよ。洗浄」


 攻撃や回復というものではなく、生活に便利な魔術とのことで師匠が言うには何百年も前から人類が使ってきた魔術とのことだ。攻撃や人を癒すようなことは出来ないが、汚れたものを洗浄したり、ちょっとした飲み水を出したりと生活の中で面倒なことをどうにか簡略化したいという思いで作られたそうだ。

 そして、このようなものを利系魔術というらしい。魔法には、このようなものはなく。魔術専用の、能力で魔法の再現以外での魔術とも言っていた。


 皿は、棚にしまってそのまま修行をするよ、と呼びかけ外へと出て言った。

 

 「さて、ケント。あなたの魔法を教えて」


 「俺の魔法?」

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