第2話 魔法と魔術と魔眼

 「そうね――私の弟子にならない?」

 

 弟子?……いやいや、そんなわけ。ふと、彼女の顔を見ると、真剣な眼差しでこちらを見ている。そんな目でこちらを見られたら、というかまず弟子ってどいうことだ。


 「弟子っていうのは、一体どういう?」

 

 「そうね、まずは家に入ってから話そうか」

 

 話が長くなる予感がしたのか彼女はそう言って、小屋の中へと案内した。外見から想像される小さな部屋というわけではなく、魔法か何かを使ったのだろう、空間が広くなっている。

 

 「さて、まずは君のことを教えてほしいな」

 

 彼女にそう言われて、確かにこの世界に来てから何も話していないということに気づいた。頭の中で、何といえばいいだろう。と考えてはみるが、いい案は浮かばない。強いて言えば、この世界とは別の世界にいたということを言わないようにすることぐらいか。


 「俺の名前は、勇行いさき 健永けんとって言います。いまは、ゾンビですけど元々は人間でした」

 

 記憶があいまいで、良くわからないけどゾンビになる前は人として、生活をしていた。彼女にはそう伝えて、反応待つ。言いすぎれば、踏んではならない地雷を踏むこともあるからな。


 「イサキ・ケント、聞き慣れない名前ね。別大陸の出身かしら?」


 彼女は、少し考える素振りを見せると独り言をつぶやき始めた。んー、一体何の話をしているんだろう。


 「ごめんね、今覚えているのはそれぐらいかしら?」

 

 「は、はい。確実に覚えていると言えるのはこれぐらいです」

 

 「うーん、理性はあるし喋ることもできる。それにゾンビってことは不老よね。なら、私の後継者にもピッタリだし。その姿も人間の姿に偽装させれる。……うん、貴方が良かったら、私の弟子にならない?生活の面では、苦労はさせないわよ?」


 値踏みするように諸々を確認して、俺に対して目を輝かせながら吸い取るような姿勢でジッとこちらを見ている。弟子になったら、当然だけど修行というのが必要になったりするんだろうな、でもこのままで生きていける自信もないし。


 「はい!ぜひ、弟子にしてください。師匠!」


 百利あって一害なし。つまり、俺が弟子として修業している間は少なくとも生きいける。さらには、そのあとも力があれば、どこかで働けるかもしれない。弟子にならない理由はない!


 「ありがとう、これからもよろしくね。ケント」

 

 「こちらこそ、よろしくお願いします。師匠」


 「師匠って呼ばれるのは、慣れないな~」


 口ではそう言っているようだが、俺にはわかる。これは、嬉しさを隠しているのだと。師匠って言われて、悪い気はしない。なぜって?俺はそう言われて嬉しいからだ。


 「えーと、弟子になったってことは修行とかしないとですよね?」


 「そうね、私は魔術師だから。あなたには、魔法系を教えるつもりよ」


 「魔法というと、どんな?」


 「魔法と言っても、1つではないわ。特に、魔術と魔法の違いはかなり大切よ。外に出るわよ、見せてあげる」


 師匠は、そう言って俺を外へと出した。そして、次の瞬間。この世界がファンタジーなのだと、眼球に鮮明に残る出来事が起きる。


 「しっかり見てなさいよ」


 師匠は、右手を前へと突き出しそう呟く。


 「炎球ファイアボール

 

 どこからともなく赤く光る粒子が右腕を囲うように集まると、火の粉のようにとなりやがて火そのものに変形していく。赤い粒子は、まさしく火そのものになり握りこぶし程度の大きさに凝縮された炎の球体は、ものすごい勢いで一直線に飛んで行った。

 まさしく不思議な力。これが、魔法か。炎球ファイアボールという初級にありそうな魔法だが、改めて思えば迫力がないわけがない。炎が目の前で、動きそれが相当な破壊力を持って標的へと向かっていく。十分に恐ろしく、この力を扱うということの危険性を静かに実感した。


 それにしても、すごいな。


 「どうだったかしら?今のが魔法よ。魔法は、生まれた際に持つ特殊な力。私は、あれ以外にも多くの魔法を持っているわ」

 

 「では、魔術は?」


 「魔術は、誰もが扱えるもの。魔法の炎球ファイアボールもあれば、魔術の炎球ファイアボールもあるわ」


 なるほど、魔法・魔術にはそれぞれ大きな違いがあるのか。よく読んでいたラノベとかのスキルがこの世界では魔法という特殊能力で、魔術は鍛錬をすれば誰もが扱えるもの。もしかしたら、俺にも魔法があるのかもしれないな。なんか、すごいワクワクしてきた。

 動いていないはずの心臓が高鳴ってる気がする。


 「魔術を見せてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 「ええ、別に構わないわよ」

 

 「本当ですか。ありがとうございます。師匠」


 「では、始めるわよ。風よ、なびけ。風草ウィンドグラス


 そよ風が辺りを包み、師匠のほうへと集まる。少しすると、風が師匠の前方へと吹き始めた。強風というわけではないが、背中が押される程度の風が吹き続けていた。それに、さっきと違って詠唱のようなものをしている。おそらくは、魔法との違いはここにあるのだろう。


 「ちょっと、気分転換に風でも起こしてみたわ。どう?涼しいでしょ」


 「え、えぇ。涼しいです」


 「じゃあ、簡単に説明するわね。まず、魔法というのはさっきも言ったけど生まれた時から持っている力よ。そして魔術は、詠唱をすることで魔法の力を再現しているの。魔法研究は、魔法の原理を解明して魔術に転用することを目指して行われていて私はそこで働いていたこともあったの。それで、気づいたのは魔術では上級以上の魔法を再現するのは非常に難しいということよ」


 「上級以上の魔法?」


 「魔法というか、魔術には魔法の力によってランクを付けているの。初級、中級、上級、最上級、そして神話に登場するような魔法は神級と言われているの。それで、中級は魔術でも問題ないのだけど、上級からは魔術によって発動できる人が限られてくるわ。もちろん、魔術も使うには鍛錬が必要なんだけど」


 魔法を再現した結果生まれた魔術。その魔術では、中級魔法までは再現できるがそれ以上の再現は才能のある人とかでないと扱えないってことだろうか。それは、つまりどれだけ鍛錬しても才能がないと意味がないってこと。結局、異世界でも狭い思いをする人はいるんだな。いや、こっちの世界のほうが酷い有様なのかもしれない。なんだか、楽観的に考えすぎるのも良くないのかも。


 「それで、俺は上級を使えるんですか?」


 「ええ、私の魔眼かんがそう言ってる。ケント、貴方には大魔術師になれるほどの才能がある。まさに、天性のね」


 師匠は前屈みになり綺麗な緑色の目を大きく開き、俺に見せるようにしながらそう言ってきた。よく観察してみれば、師匠の目には紋章のようなものが見えた。不思議な目だ。もしかして、魔眼っていうやつなのか?


 「その表情は……私に見惚れてるってわけでもなさそうね、ということは魔眼に気が付いたってことかしら?」


 「魔眼って言うんですね、その目は」


 「ええ、この世界で四人だけが持っている特殊な眼よ。私の魔眼「秘」スルーは、そのうちの1つなの」


 「残り3つは、また別々の能力を持っているということですか?」


 「そうね。魔眼「秘」スルーは、隠れた才能を見抜くことができて、他にはレーダーアナライイミテイショがあるわ。それぞれ、魔力を測る、魔法を解析する、魔法を模倣する。という能力があるわ」


 なるほど、そういうことか。それにしても、師匠は強いな。世界に四人しかいないっていう魔眼も持っているとなると世界トップクラスの実力者なのでは...?


 「なるほど、師匠はそんな珍しい魔眼を持っているんですね」


 「そう……ね。これのおかげで、助かることが多いわ。それじゃ、説明も終わったし明日から本格的に修行を始めるわよ」


 「はい、師匠。お願いします」

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