第6話 後悔、先に立たず

「失敗だ!」

「いや、これはこれで美味しいよ。盛本君の言う『ナスが溶けるように』って言う感じではないけど」


 二人は今、亮平の部屋で向かい合わせになって夕食をとっていた。

 メニューはご飯と味噌汁。メインは○美屋の麻婆豆腐の素で作った麻婆茄子である。


「……ただ、上手く行かないからって三連続で作るのはどうかと思うけど」

「やっぱり、ナスは秋まで待った方が無難か。ナスの旬って秋だったよな? 前に作ったときは秋だった気がする」

「それよりも油通しが必要なんじゃないの?」

「揚げるのはハードルが高い。それに成功したときも、別にナスを揚げたわけじゃないんだ」


 何やらブツブツ言いながら二人は箸を進める。二人が囲む食卓には紀恵が家から持ってきた、キュウリの中華風酢の物などもあり、それなりに彩られていた。

 たが、箸が進むにつれて話題が深刻になってゆく。


 自業自得ではあるのだが。


「……聞いてみればありそうな話だな。女子たちがケンカする原因として、納得するしかないと俺は思うんだけど」

「私はそうは思わないけど、それが理由というなら、まぁ、ね」


 深刻な話題とは、もちろん麻美グループについてである。

 紀恵が接触したせいで妄想にいらない縛りが入ったことを、二人は嘆いているわけだ。


「やっぱり下手に手を突っ込んだ結果、ろくな事にならなかった。俺達は傍観者であるべきだったんだよ」

「佐々木さんを見つけたのは盛本くんでしょ!?」

「俺は俺の百合に熱心なだけだよ」


 そう言われてしまうと、言葉に詰まってしまう紀恵。

 彼女がどんな変態であったとしても、百合には真摯的であるのだ。


「……しかしこうなると、しばらくは妄想がはかどらないな。もう少しクラスでの観察を続けるしかないか」


 そんな紀恵を気遣ってのことか、亮平が話をそんな風に建設的な方向に導いた。

 変態的な手段であったが。


「ああ、Q田くんやV田くんは同じクラスなんだってね。盛本くんは、そっちからの見方もあるか。カワイイ女の子の名前を挙げるだけなら……」

「……いや、あいつらは――百合には向かないんだよ」


 亮平の表情が曇る。だが、次の瞬間にはその寄せられた眉根が開いた。


「考えてみれば……俺はさほど問題ないな。男子と付き合っても、それでも遠藤さんを選んだ、とか、佐々木さんを選んだ、と言うのもまた貴ぶべき百合」


 亮平はそのまま続ける。


「例えば遠藤さんが、そのイケメンと付き合うとする。その様子を見て。佐々木さんが思いを募らせる……良いじゃないか」


 もちろん、ちっとも良くはない。さらに言うと、妄想は最終的に百合に辿り着くのである。つまり将来的に「麻美はイケメンと上手く行かない」ことを亮平は望んでいる事になるわけだ。


 やはり鬼畜外道である。


「男はいらないのに……」


 そう呟く紀恵の訴えには哀惜が滲むが、やはりその言葉の根本には「自分の妄想が一番」なのであるから同情はいらないだろう。

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