第7話 新しい可能性

「そうよ! 男はいらない。そこが大事なところよ」


 案の定というべきか、紀恵は勝手に立ち直ってしまった。


「こうなったら、とっておきを出すしかないわ」


 しかもさらに被害を拡大させるつもりらしい。紀恵がこの局面で“とっておき”と言うからには……


「誰なんだ?」

「安城さんよ」


 クラスの中で新たな犠牲者に目を付けている、と言うことなのである。


「安城さん? 西山さんは……」


 亮平が知る限り。紀恵は可愛い子であればあるほど妄想がはかどるはず。

 だとすると、安城という女子は、決して可愛いという範疇にはおさまらないだろう。美人かどうかもわからない。


 何しろ髪はあまり手入れをしていないのか、言葉を選んでも“放埒”な状態で美醜を問われれば、どちらかというと醜の方に天秤が傾いてしまう。


 しかもそんな髪であるので、それが顔を隠してしまい表情すら窺えない。ちなみに背も高めだ。

 安城という女子はそういった見た目の持ち主である。


「わかってる。盛山くんが意外に思うのは。でもね、安城さん凄い美人だから。多分クラス……ひょっとすると学校一かも」


 紀恵は、そんな見た目に関係なく満遍なく観察眼を光らせていたらしい。

 実に変態である。


「でね? 彼女は吸血鬼かもしれない」


 そして所詮、変態は変態でしかなかった。


「ああ、そっちの方向に持っていくわけか。それが西山さんの好みであるというなら、それはそれで良いけど、俺はちょっと付き合えないなぁ」


 さすがの相方。

 あるいは彼氏。


 紀恵の世迷い言は、単に妄想の方向性でしかないと、亮平はすぐに察したようだった。

 その上で、その妄想には付き合えないと宣言したわけだ。


 一般的な吸血鬼像を鑑みれば、それは亮平のに合致するように感じられるわけだが、亮平は知っている。


 創作世界の吸血鬼像はむしろ、紀恵が喜ぶほんわか空間に放り込まれることが多い事が実情だ。

 亮平は、その辺りをしっかり勉強しているのである。


 熱心な変態である。


「うん。私も今回のことで勉強したわ。やっぱり妄想は個々人がそれぞれを尊重し合うべきだって」


 立派なことを言っているように聞こえる辺り、非常にたちが悪い。


「ただ……確かに視野は広くするべきかも。学外とかに可能性を見出すのもありだな」


 吸血鬼などを持ち出すのが、視野を広げる事になるのか……やはりどう転んでも、この二人は歪んではいるのである。


 その二人は、めいめいがデザートにリンゴを剥いて、それを交換して、満足そうにリンゴを頬張った。


 実に満足そうに。


 これはこれで二人以外そとに漏れなければ、この状態でも問題ないと言えるのかもしれない。


 だがすでに、紀恵は漏らしてしまっている。

 妄想趣味は漏れてはいないが、それは“おせっかい”という形で。

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