Day22 賑わい

 アスファルトに張り付いた朝顔の葉。

 誰かの靴底の跡がくっきり残った朝顔の葉。

 鮮やかな緑色が深緑に変色している朝顔の葉。

 賑わいの後の片付けに追われる人々は誰も葉に気が付かない。

 景色の一部というより、そこに存在する事に意味を感じないからだ。

 その葉はまた誰かに踏まれてくしゃりと小さくなる。

 買い出し帰りに見た朝顔市の終わりだった。

 毎年の事とはいえ、賑わいが高揚感を連れ去った後の会場は鳩尾がスゥっと冷えてしまう。

 考えすぎは良くない、と頭を振って職場へ戻る。

「マスター、戻りましたぁ」

「お帰り、夜久やくくん。マスタードと生クリームあったかい?」

「いつものありましたよ〜」

 カウンターの中で皿を磨いていたマスターに袋を渡した夜久は、喫茶店Waltzのエプロンを付け直す。

「この後お客さん増えるから30分後には戻ってきてね〜」

「はぁい」

 バックヤードで腕枕をして机に突っ伏す。

 朝顔市の間も客は大入りだが、撤収作業の後は打ち上げで来る人も実は結構いる。今日はいつもの閉店時間より延長して営業すると決まっているので仮眠を早めに取っておくのだ。

 ふわぁ、と夜久はあくびをした。

 賑わいの後の賑わいもまだ楽しみだな、と思いながら目を閉じる。もう、自分は居場所のない朝顔の葉とは違うんだ。

 

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