Day21 朝顔
やっと、家に帰れた。
警備の仕事から帰ってきた英里は、真っ暗なアパートの一室に雪崩れ込んだ。
でも廊下で寝るわけにいかない、と這いずって風呂へ向かう。シャワーで汗を流しながら、娘たちはもう眠ってるんだろうなぁ、娘たちとちゃんと話せなくて申し訳ないなぁ、そうだスーパーの特売日が明日だったなぁ、明日のゴミ出しまとめなくちゃ、とあれこれ思う物が浮かんでは消えていく。
タオルで髪を拭きながらキッチンに入れば、調理器具と食器が洗って伏せてあった。
「
冷蔵庫のホワイトボードには「にものとビール冷えてるよ」と不恰好な
「頑張って書いてくれたのねぇ」
感謝していただきます、と小さく言って、電子レンジで温めた咲奈お手製ナスとツナの煮物を白飯と一緒にかき込む。
「私より上手になったんじゃない?咲奈なら料理関係の就職もアリかも」
大きめにカットされたとろとろナスとツナがポン酢でさっぱりまとまっている。ツナ缶の油ごと入れたらしく、まろやかな口当たりも美味しい。乾燥わけぎまで散らしてあって中々立派なおかずだ。
かなり遅い夕食を食べ終わった英里。ビールは金曜日に残しておきたいので手をつけないでおこう……と考えたところで、そういえば冷蔵庫の隅にお菓子があったような気がした。開けてみると「ママの!」と愛芽の字が書かれたパックの練り切りの和菓子。シールには「鏡草」と書いてある。
「咲奈がバイト先で買ってきたのかな……?」
咲奈は通信制高校に通いながら、近所の和菓子屋でバイトをしている。たまに消費期限の都合で安く買ってくる事があったが、無理して買って来なくても良いと英里は何度か言っていた。
輪ゴムで止められたパックの中には、薄青のぼかし染めのような丸い練り切りが1つ入っていた。真ん中に薄黄の餡まで乗っている。
さつまいもの葉に似た葉っぱに蔓までついてるなぁ……と思ったところで英里は気が付いた。
「朝顔の練り切り……!?」
ぼかした薄青、丸い形、餡で再現されたしべ。葉っぱと蔓。「鏡草」は知らなかったが、練り切りの形は紛れもなく朝顔だった。
「季節の練り切りだなんて奮発したものねぇ」
指先でそっと持ち上げてしげしげと眺めた英里は、少し気が引けながらも鏡草に半分かぶりついてみた。
練り切りは白餡と砂糖でできているだけあって甘い。でも普通のあんこよりなめらかで口溶けが早い。久々の甘味に英里の口元も綻ぶ。
食べ切るのが勿体無い気持ちと、夜中の甘味に飢える気持ちに挟まれた英里だったが、食欲に負けて早々に鏡草を完食した。
パックを片付けながら英里は冷蔵庫に貼ってある朝顔市のチラシが目についた。朝顔がずらりと並ぶ壮観な光景。手前には朝顔柄の浴衣を着た女の子が微笑んでこちらを見ている。
「もしかして、咲奈が鏡草を買ってきたのは朝顔市に行きたい、って事かな」
練り切りとチラシの意味がなんとなくわかった英里は、娘たちの熱意をくんで、カレンダーアプリで日程調整を始めた。
(「Day12 門番」の英里とその上の娘の
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