25 サスペンダー公爵令嬢視点

「誠心誠意、謝罪してください。そうすればお金など要りませんわ。あの高慢だった我がままな公爵令嬢のぶざまな姿を見るだけで気持ちが晴れます」


 私は床に膝をつけ身体を前に倒し両手も床につける。頭を限りなく低くさげると、屈辱で全身が震え涙がこぼれた。令嬢達は黙ってそのまま無言でいる。やがて一人が口を開く。


「私達は婚約破棄されて、もうまともな貴族の令息には嫁げないところでした。どれだけ社交界にいづらかったかわかりますか? 自らの落ち度や身持ちの悪さから婚約破棄されたと思い込まれ、釈明する機会も与えられず泣き寝入りだったのです。ですが、ヴァルナス皇太子殿下はサスペンダー公爵令嬢の愚かな行為のせいだ、と公言してくださいました」


 だから慰謝料は要らない、と口々に言いながら立ち去ろうとする。


「お金は要らない? だってあなた方はその為に訴えたのでしょう?」


「これはヴァルナス皇太子殿下がお考えになったことです。サスペンダー公爵令嬢は崖っぷちに立たされないと反省できない性格だから、とおっしゃいました」


 確かに、婚約破棄された令嬢のことなど考えたことはなかった。それが醜聞になりおもしろおかしく噂になり、彼女達の未来を握りつぶすことになることをわかっていたはずなのに。どこか人ごとで、そのような令嬢達の犠牲も私ほどの身分で美貌なら当然だと思いあがっていたのよ。


 

☆彡☆彡



 私は今、ヴァルナス皇太子殿下の御前で新たな誓いをたてさせられている。最も厳しい戒律の修道院に5年間入り清く正しく生きること、そしてその後はお父様の領地に戻り静かに暮らすこと。


 いっときは娼館か鉱山で働かなければならないかも、と恐怖で怯えて夜も眠れなかった。それに比べれば天国だ。


 最初から修道院と言われたら不満を漏らしふてくされていたに違いない。それをヴァルナス皇太子殿下は見抜いていたというわけね。


 私は5年間、修道院で祈りを捧げ品行方正に生きた。それから私はお父様達と再会をはたし、僻地だけれど心温かい領民がいる地で暮らした。その後私は誰にも嫁がず、生涯独身で過ごしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る