24 サスペンダー侯爵令嬢視点

 わたしはサスペンダー公爵家に戻り、自分が悲劇の主人公のようにお父様に報告する。お母様には私が不当にヴァルナス皇太子殿下からお説教を受けたと泣きながらすがった。


「皇帝陛下に話をつけましょう。あのヴァルナス皇太子殿下は番騒ぎで頭が正常に働いていないのですわ。きっと色ぼけです!」

 お母様は良いことをおっしゃる。


「色ぼけ? よくわからんが、シンシアよ。お前はなにも悪い事はしていないのだな?」


「はい、もちろんですわ、お父様。私を信じてくださいませ」


 私はお父様とお母様に真実は言わずに、ただ自分が誤解されていると言い訳をした。そうして両親と共に再び宮殿を訪れ、今度は皇帝陛下にお目通りを願った。お父様達にヴァルナス皇太子殿下から話が来る前に、皇帝陛下をうまく丸め込めば安心だと思ったのよ。



☆彡★


 

 久しぶりにお会いした皇帝陛下は私達を面白そうに眺めていた。


「ヴァルナス皇太子殿下はなんの罪もない娘を断罪しようとしました。次期皇帝には相応しくないと思われます。わたしは兄上の実弟ですよ? このシンシアは兄上の姪ではありませんか?」


「ふん。自分の娘になんの罪もないとなぜわかる? 娘の素行や言動を調べたうえでの発言だろうな?」


「そ、それはもちろん娘の言ったことを信じるのは親としては当然です。人情的にもそうでしょう?」


「人情? 皇家に生まれて人情論を言い出すとは愚かな奴め。お前の娘の素行調査など、とっくの昔から余はしていたぞ。複数の男を手玉に取り、まるで娼婦だ。余の姪とはこのような愚かな娘だろうか? 否、この娘はお前の子ではない。そうだな?」


「・・・・・・まさか、兄上? シンシアをどうなさるおつもりですか? どうかご慈悲を。この身はどうなっても構いません。まだ若く美しいシンシアです。どうかご慈悲を・・・・・・」


「慈悲? 余が慈悲深いと思うのか? その娘を自分の娘として最後まで守るのなら、その地位をかけて償え! この件はヴァルナスに一任した」


 お父様が皇帝陛下にお願いしても覆らない事の重大さに初めて涙が流れた。





 お父様は公爵位を自ら返上し、僻地に領地を新たにいただき、伯爵となり旅立たれた。私は莫大な慰謝料を自ら返すこととなり、どうしていいかわからないほど狼狽していた。


 私一人でこんなお金が払えるわけがない。私は令嬢達に慰謝料の額を少なくしてくれと懇願するしかなかった。


「お願いします。半分にしていただけないでしょうか? 自分で払うには一生かかっても無理そうです」


 自分より身分の低かった令嬢達に頭を下げるのは初めてだ。


「あら、立ったままで私達にお願いするのですか? 人にお願いする態度をご存じないのかしら?」


 私は目が熱くなり拳を握りしめた。屈辱で息苦しいほど呼吸が乱れていくのだった。

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