第6話 さようならの手順

 さようなら。ここから始まる物語はあなたの現在をあなたから分離させる。

 さようなら。

 ぼくはあなたがこれをいつどこでどのように目にしているのか分からない。書き立てホヤホヤを読むのかもしれないし、何十年後かもしれない。そこだけはいつだってどこの国だってどんな作者だって選べない。物語とは、作者の思うように出来ているつもりで、本当は全ては読者に委ねられている。全く誰も見ることのない真実。この世に広まるべき思考方法。ただの文字。列。頁。見られることがなければ無いのと同じになってしまう。

 だからあらゆる物語は祈りだ。そしてお別れだ。今、あなたの人生が退屈なのであれば物語はそこに彩りや興奮を与えるし、悲しくつらいときには慰めにもなる。読まれれば、の話だが。

 さようなら。

 あなたには生きるべき現実があり、それは人生や生活と呼ばれる。いつまでもここにあなたはとどまってはいられない。僕と同じように。

 さようなら。

 この文章の羅列はそろそろ終わる。けれど、あなたに少しでも何かを与えることが出来たなら、ぼくは嬉しいのです。

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