第5話 ぼくの背中には翼が

 無意識のうちに背中の羽をむしっちゃって困る。暇だとついやってしまうのだ。クリーム色になった羽だの二股に分かれた羽だのを取ってしまう。かといって、見映えが格段に綺麗になるわけでもない。単なる暇潰し。もしくはストレス解消。ブチブチとむしるなんて天使にあるまじき素行なのだからやめなさいと母は言う。

「悪魔みたい」

 母は顔をしかめる。どっちかというとこれは人間じゃないかなあと僕は思う。思うだけで口にはしない。口で母に勝てた試しはないのだ。その代わり、というわけでもないが、親の世代からは疎まれるカラーに両羽を染色して見せたりする。ささやかな抵抗。自己の顕示。黒にするほど尖ってはないが青にするぐらいの度胸はある。母はさらに顔をしかめてみせ、そのうち悪鬼の形相となる。

「悪魔みたい」

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