第55話


「……あれはもう寝ようとしてると思ってたよ」


「寝ようと思って布団に入ってたよ。家に帰った後も、ずっと昨日の一連の出来事について考えてた。恐らくあんたが原因に関わってるっていう仮説を振り返って、やっぱりあんたを追及出来る程度には辻褄が合うと確信したから、後は全く手を付けられていないおきつね様について調べたら、今日ここであんたを問い詰めようと決めた。クタクタだったけれど延ばしていい理由も無いし、駄目元でキイに手伝ってくれないか電話したの。コンビニ店員さんが、おきつね様の噂がある土地の最寄り駅はすずり駅って名前で、ここから一時間ぐらい先だって話してたのは覚えてる? キイは毎日一時間ぐらいかけて電車通学してるから、すずり駅周辺について何か知ってるかと思って。そしたら即オーケーしてくれたから、その後あんたに電話したの。逃げられたら堪らないから」


「っつう事は布団の音はわざとだろ。寝るから今日はもう動き回らねえだろって、俺を油断させる為の演技だ。俺はあの時点では、お前に正体がバレてると全く思ってなかったんだから」


「そう」


「マジで頭いいよなお前」


「人を煽る時は、自分より馬鹿を狙わないと返り討ちに遭うよ」


「ただの絶賛さ。収穫はあったか名探偵?」


「ギリギリ飲み屋が賑わってる時間に行けたから何とか。そこで地元の人を探して、社会の授業で郷土史について調べてるんですけれど、私は外の土地から越して来たから、伝手つてが無くて困ってるんですって尋ねたら快く。お酒入ってる大人ってベラベラ喋るし気前よくなってるから、狙うには丁度ちょうどいい。おきつね様はコンビニ店員さんの言ってた通り、今は住宅地になってる山に建てられた神社の神様だった。どういった神様なのかも、店員さんが言ってた内容とほぼ同じ。住宅地を作る際に近くの山に移転されたそうなんだけれど、それをきっかけに廃れたんだって。その情報を得てから、守谷に電話した。昨日キイとお昼食べてた時の会話覚えてる? キイが、足立と自分は最寄り駅が同じだった気がするって守谷が話してたって。守谷に確認を取ったらその通りで、足立の住所を教えて貰ったら、移転して廃神社になったおきつね様がいる山の麓に住んでた。守谷はコンビニで別れた後足立に会いに病院に行ってたし、続けていたの。おきつね様に何かしたか話してなかったかって。そしたらやっぱり廃神社に悪さしてた。壊してはないけれど、鳥居や本殿を蹴ったんだって。肝試しの三日ぐらい前に。ベタな流れだけれど、それでおきつね様の怒りを買ったんじゃない。あんたが部室に忍び込んだ報復に、井ノ元達へ無言電話をかけたみたいに」


「何で足立はそんな事を」


「守谷が部活ばっかで構ってくれない苛立ちをぶつけたんだって。帰宅部で放課後は遊んでるだけの奴には分かんないんでしょ。四月は部員確保の為の新歓ライブがあるからそれに合わせて去年の冬から練習だし、五月は新入生の初ライブの為の指導。そうしてる間に中間試験で、近隣校との対バンイベントも控えてる。それが終われば期末試験。夏休み中は対バンが増えるし地域のイベント出演も加わってと、こんな調子でうちの軽音は結構忙しい。かつ守谷は副部長の私がいるバンドだから、同期のバンドの中で一番出演本数もある。ならそれだけ人脈も広い事になるんだから、猶更なおさらギターの一人ぐらい見つけて三人体制でやってる筈だけれど、私がそれを今日までしなかったのはその席に、自分が存在してるって事にやっぱりあんたがしてたから?」

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