第32話 最終試練 1/2

「《上級の焔矢ブレイズ・アロー》《上級の氷槍ブリザード・ランス》!!」

「《上級の雷撃ライトニング・ボルト 》《上級の嵐槍ストーム・ランス》!!」


 紅蓮に輝く焔の矢。凍てつく氷の槍。

 紫電の一撃。渦巻く嵐の槍。

 強力な魔法同士がぶつかり合う。


 俺の黄金の腕輪によって強化された魔法も、じいちゃんは何事もなかったかのように拮抗していたのだ。この腕輪がもたらす力は、これまでの冒険で俺が経験したどんな敵よりも圧倒的なものだった。それでもじいちゃんは、その力に全く動じることなく立ち向かっている。


 じいちゃんが示すその落ち着きと力強さは、俺がこれまで知らなかった彼の一面を見せてくれた。彼がただの老人ではなく、かつては計り知れない力を持つ人物だったことを示していた。じいちゃんのその姿には、ただただ驚くばかりで、同時に深い尊敬の念を感じずにはいられなかった。


(なんだよ、この魔法のぶつかり合い!!)

(ファンタジーが過ぎるだろ!!)

(ムサシ、ハンパないって!?)

(スゲェ!! 同接50万人突破だってよ!!)

(各種SNSのトレンド一位が、『ムサシ』になっているぞ!?)


 俺たちの繰り広げる凄まじい魔法の攻防は、視聴者たちの心をも強く掴んでいた。コメント欄は高速で流れる文字の波となり、俺の黄金の腕輪によって強化された視力でも、その全てを読み取るのが困難なほどだ。そして、驚くべきことにスーパーチャットの額は、なんと億を超えている。この瞬間の盛り上がりは、俺たちの配信がこれまでにない規模の注目を集めていることを示していた。


 カメラを握る楠木さんも、この熱狂的な雰囲気に包まれ、興奮を隠しきれていない。俺は、魔法の衝撃が直接彼女に向かわないように注意しながら戦っていたが、それでも魔法の力の余波で熱くなった空気が彼女を包んでいる。彼女の鼻息が荒くなっているのを感じると、この戦いの熱量が物理的にも感じられるほどになっていることを実感した。


 この戦いの中で、じいちゃんと俺との間に繰り広げられる魔法の攻防は、ただの力のぶつかり合い以上のものを視聴者に伝えていた。それは、過去と現在、そして家族の絆が交錯する壮大な物語の一部となっている。この配信を通じて、俺たちはただのゲームやエンターテイメントを超えた、深い感動と共鳴を視聴者に届けているのだ。


「《最上級の赫灼砲ボルケーノ・ブラスター》!!」

「《最上級の冰地獄グレイシア・インフェルノ》!!」


 最上級魔法の熱線を放つも、じいちゃんは地面から氷を出して防いでくる。水蒸気が爆発を起こして、衝撃が部屋中を駆け巡る。


 水蒸気が晴れると、そこには無傷のじいちゃんの姿があった。あぁ……これじゃダメだな。もっと全力で、もっと強力な魔法でなくては。


「じいちゃん……ありがとう」

「ん? 何か感謝されるようなことでもあったのかの?」

「じいちゃんのおかげで……俺、人生変わったよ。暗澹としていた人生が、煌びやかなものになったよ」

「そうかそうか、それはよかった」


 たった数分の配信で億単位の収益を得ることができたのは、まさに信じられない出来事だった。サラリーマンの生涯収入が平均して2億〜3億円と言われている中、この短時間でそれに匹敵する金額を稼ぎ出したのだから、もはや働かなくても生活していけるだけの資金を確保したことになる。このすべてが、魔法という存在があったからこそ可能となったことだ。


この奇跡のような現実は、じいちゃんとの再会、そして魔法という非日常の力に触れることができたおかげだ。じいちゃんに対する感謝の気持ちは、どれほど言葉にしても表しきれない。もし魔法に出会っていなければ、俺の人生は今とは全く異なるものになっていただろう。魔法との出会いが、俺の人生をまばゆい輝きで満たしてくれた。


じいちゃんとの再会、そして魔法を介した冒険がもたらした変化は、俺の人生を根底から変えてくれた。これまで経験したことのない冒険、そしてそれに伴う感動や喜びは、今後の俺の人生においても貴重な宝物となる。だからこそ──


「じいちゃん」

「ん、なんじゃ?」

「俺……勝つよ」

「……生意気なことを言うようになったの」


 だからこそ、俺は勝つ。

 一人でも大丈夫だと、じいちゃんに示すため。

 そしてじいちゃんがこの世を満足して去ることができるように、俺は自分の全てを出し切ることを誓った。


 俺の前に広がる空間に、力強い魔法陣が現れる。その中心で、俺の手からは紅色の光が溢れ、魔法陣を灯す。この紅の光は、俺の魔力が極限まで引き出され、全力で魔法を展開している証だ。全身から魔力を絞り出し、その力を魔法陣に注ぎ込む。俺の意志と魔力が一つになり、前に立ちはだかる挑戦に立ち向かう。


 紅の魔法陣が輝く中、俺はじいちゃんに向けて最後の力を振り絞った。この戦いを通して、俺は一人でもしっかりと立ち向かっていけること、そして常にじいちゃんが俺の心の中で生き続けることを証明する。じいちゃんとの絆、そして魔法との出会いが俺に与えてくれた力を全てこの戦いに注ぎ込む。これが、俺の全力、そして俺の答えだ。


「俺の全力の魔法……受け止めてくれる?」

「あぁ、もちろんだとも」


 そして──


「《劫火ロストソナ》」


 世界は赤く染まった。

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