第31話 感動の再会

 少し時間が経ち、感泣も落ち着いた。

 そして、俺は疑問を投げかけた。


「じいちゃん……どうして、生きているんだ?」

「その質問に答える前に、少し前から配信は切らせてもらっておるぞ。家族の感動の再会くらい、水いらずで楽しみたいからの」

「あ、そうだね。楠木さんも──え?」


 振り返ると、彼女は横になっていた。

 どうやら深く寝ている様子だ。


「彼女にも悪いが、眠ってもらった」

「そっか……。すぐ目覚めるんだよね?」

「ワシらの会話が終われば、直に目覚める」

「わかったよ。だったら、安心だ」


 やはりじいちゃんは俺と同様に、魔法が使えるみたいだ。こんな芸当、魔法師じゃなかったら説明つかないもんな。


「それで……何から聞きたい?」

「そうだね……。まずはどうしてじいちゃんが、ここにいるのか聞こうかな。じいちゃんはどうして、生きているの?」

「正確にはワシは、蘇ってなどいない。このワシはお主のじいちゃんの複製体じゃ」

「つまりクローン、みたいな感じ?」


 首を縦に振るじいちゃん。

 いや、クローン爺ちゃん。

 薄々そんな気はしていたので、動揺などは薄い。問題はどうしてじいちゃんがクローンを作ったか、だ。


「次の質問だけど、どうしてじいちゃんはクローンを作成したの?」

「武蔵、お主のことが心配だったからじゃよ」

「え?」

「両親を失い、ワシも死した後……お主は天涯孤独の身となってしまう。それだけが心残りで、ワシは複製を作成したのじゃ」

「つまり……俺を見守るために?」

「その通りじゃ。じゃがお主を助ける必要は、どうやらなかったみたいじゃけどな」


 後ろに眠る楠木さんに、じいちゃんは優しい顔を向けた。


「お主を助ける必要がないと察したワシは、こうしてダンジョンの深層でお主を待ち構えることにしたわけじゃ。お主が本当にピンチになった時に、いつでも駆けつけられるようにの」

「そうなんだ……。ありがとう、じいちゃん」

「何、愛孫のためなら何でもできるわい」


 優しく微笑むじいちゃん。


「次に……これは一番聞きたかったことなんだけど、じいちゃんが残した『ジイボンの魔法書』や蔵、そして魔法やダンジョンは一体なんなの?」

「そうじゃの……。突拍子もない話になるぞ?」

「魔法があるんだから、もう慣れっこだよ」


 じいちゃんは優しく微笑み、語り出した。


「そもそも、ワシは地球人ではない」

「……え?」

「『幽檻世界グロリア』、その世界からワシはやってきたのじゃ」

「つまり……異世界人、ってこと?」

「そうじゃ。魔法実験の失敗で生じたワームホールに巻き込まれ、ワシは地球にたどり着いたのじゃ」

「つまり異世界人だから魔法も使えて、ダンジョンも作成できるってこと?」

「その通りじゃ。ついでに言うと、ジイボンの書の作者はワシ自身じゃよ」


 想像以上に突拍子もない話だった。

 だが同時に、納得できる話でもある。

 異世界人でもなければ、魔法やダンジョンなんて不可能だろうから。


「それで、聞きたいことは以上かの?」

「う、うん。じいちゃん、これで──」

「──残念じゃが、一緒には暮らせん」

「……え?」


 俺の言いたいことを先読みして、じいちゃんは答えた。


「ワシも愛する孫と一緒に暮らしたいのは山々じゃが、所詮ワシは複製体じゃ。寿命も極めて短く、残り数時間の命じゃ」

「え、だったら──」

「だからこそ、愛する孫の最後の砦になろうと思う」


 じいちゃんはそう言うと、鷹のように鋭い眼光を放ってきた。


「魔法やダンジョンを残したのは、お主が1人でも生きていけるためじゃ。そしてお主はもう、1人でも十分に生きていけるじゃろう」

「いや、そんなこと……」

「じゃがワシは過保護での。愛する孫が本当に1人でも生きていけるのか、測ってみなければ納得できないのじゃ」

「それってつまり……じいちゃんと戦うってこと?」

「その通りじゃ。後ろを見てみい」


 後ろを見ると、起き上がる楠木さんの姿があった。そしてどうやら、配信も復活したみたいだ。


(お、カメラ映ったぞ!!)

(なんだ、ラスボスは……なんだかおっかない爺さんだな)

(でもなんだかそれっぽいぞ!!)

(ムサシ!! 勝ってくれ!!)


 コメント欄は復活した配信に、湧いている。

 カメラを握る楠木さんも、目が爛々と興奮している。


「……わかったよ」


 正直、愛するじいちゃんとは戦いたくない。

 だけど、それがじいちゃんの望みなら。

 孫として、聞き届けてあげないと。


「全力でかかってくるがいい!!」


 そして最後の戦いが始まった。

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