第33話 最終試練 2/2

 俺の全力で放たれた魔法の後、部屋は認識を超えた変化を遂げていた。かつて大理石で構成されていた壁と床は、その強大な魔法の力によって見る限り熔解してしまっている。一面の焼土と化したこの部屋は、戦いの激しさと魔法の力を物語る証となっていた。


 しかし、楠木さんの周囲には俺が張った結界がしっかりと保持されており、彼女は無事でいた。その事実が、この全てをかけた戦いの中で俺にとって最大の救いだった。


 焼土と化した部屋の中心に、じいちゃんは立っていた。彼が纏う和服はボロボロになり、全身は傷だらけであるにも関わらず、その姿はなおも堂々としており、強い意志を感じさせた。


「……強くなったの、武蔵」


 じいちゃんが俺の背後を指差したので、俺は振り返ってみた。そこには、楠木さんが再び眠りについており、配信も中断されている様子が見て取れた。戦いの熱狂と魔法の力が、彼女を再び夢の世界へと誘ったのだろう。そして、配信の中断は、この非日常の一幕が俺たちだけの秘密となることを意味していた。


その時、じいちゃんはニコッと優しく笑みを浮かべた。それは俺が幼い頃から何度も見てきた、俺にだけ向けられる特別な笑顔だった。その笑顔には、言葉にならないたくさんの意味が込められており、俺はその一つ一つを心に感じ取ることができた。愛情、誇り、そして何よりも、俺への深い信頼。


「両親を早々に失い、1人ぼっちになってしまうお主のためを思いジイボンの書やダンジョンを残したが……まさかここまで成長してくれるとはの。グロリア最強の賢者と謳われたワシをも、凌駕してしまうとはの」

「じいちゃん……」

「孫がここまで強くなって、ワシも鼻が高いの」


 じいちゃんはさらに、笑顔を浮かべた。

 その身体は徐々に、光の粒子と化している。


「グロリアから地球にやってきたときは、絶望したものじゃ。初めての地、そして魔法がない文明に困惑したの。何度涙を流したか、もう覚えていないの」

「じいちゃん……」

「じゃが、婆さんと出会い息子ができ……孫がワシを超える。こんなに嬉しいことはないの。最初こそ深く絶望したが、今は地球にこれたことを……心底感謝しておる」

「じいちゃん……」


 薄れゆくじいちゃんの姿に、思わず涙が止まらない。これまでのじいちゃんとの記憶が、鮮明に脳裏を駆け巡る。


「じいちゃん……」

「武蔵、幸せになれよ」

「うん……必ず……!!」

「はは……それは……何よりじゃ……」


 そしてじいちゃんは、光の粒子と化した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



(ん、再開したぞ!!)

(なんか今日は、途切れるな!!)

(どうなったんだ!? あの後は!?)

(老人がいないから……勝ったんだな!!)


(ついにラスボスに勝利!!)

(スゲェぜ!! 最高だぜ!!)

(でも……ダンジョンの謎は?)

(↑んなもん、どうでもいいだろ)


(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 楠木さんが目を覚まし、配信も再開されている。コメント欄は再び活気づき、視聴者たちが俺の勝利を察しているように、高速で流れるコメントが戻ってきた。この反応は、俺たちの冒険と戦いが多くの人々にとって意味のあるものになっていることを示していた。


 しかし、じいちゃんの死を乗り越えて配信を続けることは、正直なところ容易ではない。心の中は悲しみと空虚感でいっぱいだ。だが同時に、俺は配信者であり、数えきれないほどの視聴者たちが俺の活躍を見守り、支えてくれている。彼らが俺に期待を寄せている以上、その期待に応える責任がある。


 そう考えた時、俺の中に新たな決意が芽生えた。「だったら──期待に応えなくてはならない。」この言葉を胸に、俺は深く息を吸い込み、カメラの前に立った。


「みんな、今日の配信を見てくれてありがとう。チャンネル登録、高評価をよろしくね!!」


 じいちゃんとの再会、そしてこの戦いを通じて得たものは計り知れない。これらの経験を糧に、俺はこれからも配信を続けていく。


 天国のじいちゃんに1人でも大丈夫だと、伝えるために。いや……正確には、楠木さんと2人で。

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