#050 健全な青春

「たっ君たっ君! この子! もっとおっぱい大きくして!! あとあと……」

「いや、したいなら自分でやってくださいよ」


 おっぱいをユサユサしながら、部長がイラスト本にダメ出しと言うかリクエストをくわえてくる。


 しかしこの人、自分が女で、しかも胸もデカいことを忘れているんじゃないだろうか? どうも部長は金髪巨乳がストライクらしく、徐々に隠さなくなってきた。


「でも、金髪ツインテールなら、貧乳がマストではないですか?」

ツインテールそれ、シャルちゃんが勝手に追加したヤツじゃん」

「ぐっ。な、なんのことだか……」


 そして僕を挟んで言い争うのは、リアル金髪美少女の宇宙刑事。師匠はロリ寄りの金髪ツイン派であり、ポジションが近い事から設定で度々衝突するようになった。


「大声でおっぱいだのって…………外に聞こえたらどうするのよ。下らない事でまったく」

「くだらなくないですよ!」

「そうだよ! おっぱいは世界を救うんだよ!!」

「はぁ~、救うとしても癒しであって、そんな言い争いでは無いはずよ」

「「ぐぬぬぬ……」」


 そして僕を挟んで2人の暴走をいさめる委員長。それは正直ありがたいのだが、できれば僕を囲んで魔のトライアングルを形成するのはやめてほしい。


「そうやってリテイクばかりしてるから、女性サイドは進まないのよ」

男性サイドそっちは結構進んだね」

「もちろん。限られたスペースの中でどれだけ要素を詰め込むか。本来ならばもっと濃厚な絡みを……。……」

「「…………」」


 正直、意見が衝突していないだけで、やっている事は男性サイドを担当している人(腐った女子)たちの方が大概なのだ。


 それはさておき、オタク文化や性の話題について、気づけばオープンに話せるようになっていた。これが去年だと、毎日お通夜状態だったし、なんなら部活に限らず教室の雰囲気も改善してきた。


「しかしいいですね、男性サイドは」

「「????」」

「だって自由に乳首を描き込めるじゃないですか。ズルいですよ、男女差別です!」


 男の僕としては、男の乳首を見て感じるものはないし、社会もそれを"常識"としている。しかし師匠はその固定観念の外から来た宇宙人であり…………ナチュラルにオタク文化や下ネタを使いこなす姿が、周囲に良い影響をあたえた。


「ふふ~ん。まぁ、そういうルールだから、仕方なくね。別に私も好き好んで描き込みたいわけじゃないけど…………ほら、上半身裸なのにあえて描き込まないってのも変な話じゃない??」

「「…………」」

「な、なによ、その目」


 性の知識は学校でもハレモノで、年々保健体育の内容も薄くなっていると聞く。しかし本来、性の知識は必要不可欠なものであり、生物として当然の欲求。そこに後ろめたさなど感じる必要は無いのだ。


 そう! エロに興味を持つ事こそが"健全"であり、事なかれ主義で全部に蓋をしようとする行為こそが不健全なのだ。


「しかし! まだまだ描写が甘いですね」

「そ、それは……」

「つか、なんでこんなに乳首が大きくて色が鮮やかなんですか」

「これじゃあ女の子の乳首だよね」

「もしかして…………自分の……」

「わぁー! そもそもベース部分を描いたのは私じゃないし!」


 師匠はクラスでもこんなノリなので、いつのまにか性関連のワードを軽く言える雰囲気になっていた。それはいわゆる『赤信号、皆で渡れば怖くない』的なものなのかもしれないが…………僕は思春期の少年少女として、今の方が自然で健全だと思っている。


「それじゃあ、ちょっと確認してみましょうか」

「なにそれ、お姉ちゃん、ちょっと手伝っちゃおっかな~」

「やめろ変態ども! それ以上近づいたら!!」

「ぐへへへ~。気の強そうなお嬢ちゃんだ。その強がりがいつまでもつかなぁ~」

「な、なにを……」

「さっき食べたメシに、感度を3000倍に増幅させる薬を盛った。そろそろ……」

「なっ! そんなものに、私は屈したりしないんだから!!」


 即興の小芝居を繰り広げる3人。教室では無理だが、最近の委員長はここまで乗ってくれるようになったし、自分はしないながらもクラスで男子が似たような悪ふざけをしていると、止めずに、理解のある目で見守ってくれる。今の、僕のように。


「……というか、ですね」

「「????」」

「急に、スンってなったわね」

「いや、男乳首なら、そこに……」

「「…………」」

「えっと、僕、ちょっと急用を……」

「「まって~ぃ!!」」




 こうして僕は、突発的に清らかな乳首からだを失った。

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