#049 眼鏡戦争

 あれから部のイラスト本制作は順調に進んでいる。最初に僕がセリフも決まっていない雑なプロットをあげ、あとは皆が面白がって加筆していくのを見守る。もちろん大半はオフザケだが…………その中でも一部の女子部員が担当している男性サイドの進行とクオリティーが頭2つ分くらい先行している。


 まぁ、ようするに妹さんや委員長が牽引する形で頑張ってくれているわけだ。たぶん何処かの段階で熱も冷めて失速するだろうが『中学生の文化祭の出し物』としての最低ラインをこえるのは確実。


 あと、まだ詳細はまったく分からないのだが、昨日、教師が数名、進行状況や今後のプランを確認しにきた。まず間違いなく『壁絵サイズのイラストの制作費問題』を審査するためだったのだろう。今までの活動もあるので、まず間違いなく却下されるだろうけど。


「……それで、聞いているの!」

「あぁ、うん」

「だから、メガネの形にはパターンがあって……。……」

「「…………」」


 メガネ屋に行く道中、熱く語る委員長。一応メガネは買って貰える事になり、親から予算もおりている。安いものならこれだけで足りるだろうが、オーバーした分は自腹コースだ。


「ジュンジュン、ジュンは私のメガネ姿、見たいですか!? こう言うヤツ!」


 指で大きな丸を作って見せる師匠。たぶん瓶底メガネ的なヤツをイメージしているのだろう。完全な丸メガネは案外お洒落で、実際にかけてみると違和感が凄いのだが…………昔のアニメキャラだとベタな丸メガネは多かった気がする。


「興味が無い事もないかもしれないけど…………どうなんだろう??」

「ジュンは、眼鏡っ子属性は嫌いですか??」

「嫌いでは…………ないけど、ギャバンのイメージではないかな」

「まぁ、そうですね」


 絵に描いた金髪美少女の師匠に、メガネのイメージはない。探せばいるのだろうが、僕の脳内検索でも『金髪+メガネのアニメキャラ』は該当ゼロ人だった。


「そういえば碧眼って紫外線に弱いんだよね?」

「あぁ、どうなんでしょう? (青い目)これしか試した事がないので」


 師匠の目は碧眼であり、メラニン量が少ないので光に弱いと聞いた事がある。海外の映像でも北欧系の人は巨大なサングラスをしているイメージがあるのだが…………じっさいどれ程違うのかは分からない。それこそあんパンを入れ替えるノリで顔パーツを入れ替えでもしないかぎりは。


「だから、聞いてる!? って着いちゃったじゃない」

「そうだね」

「さあ、タノモーですよ。タノモー!!」

「まって、それ、違うから!」


 ジョークなのは分かっているが、ノリのいい師匠は本気で実行するので放置するわけにもいかない。


「いらっしゃいませ。本日は……。……」


 すかさず手の空いた店員が駆け寄ってくる。ショッピングモールなどのテナント店はそうでもないが、個人店は基本的にマンツーマンになりがちなので陰キャの僕的には苦手な場所だ。そしてそれが分かっていたのか、我が部の陰キャ代表・穂積絵馬選手は今回欠場となった。


「新規購入で。予算はレンズ込みで2万まででお願いします」

「それでしたらコチラの島になりますね」

「それじゃあ…………まずは視力を測ってもらってきて」

「あぁ、うん。お願いします」

「それではこちらで……。……」


 まずは測定コーナーで、現在の正確な視力と適切なレンズの度を測定する。


 しかし流石と言っていいのか、メガネをかけていない委員長が眼鏡ユーザーの僕をさしおいて事を運んでいく。





「もう終わったのですか」

「もうって、ほどでもなかったと……」

「それより! 候補を用意しておいたから、かけて」

「あ、はい」


 測定をおえると、僕の意見なんて聞かずに候補のメガネが並べられていた。正直フレームは何でもいいのだが…………2人の目が、ちょっと怖い。


「やはり派手なのは似合いませんね」

「基本にして至高! 予備ならまだしもメインはコッチよ」

「「…………」」


 ヒートアップする2人を、僕と店員さんが静かに見守る。しかし何かノルマでもあるのか、他の店員が担当店員に目くばせをしてきた。


「えっと、今、こんなのが流行って……」

「「却下!」」

「あ、そうですか……」


 うん。頑張りは認めるよ。しかしこういう時は、激流に身をまかせるしかない。


「それで、これはどう?」

「いいんじゃないかな」

「ジュン! こっちもいいですよね!!」

「そうだね、いいと思うよ」


 言い換えると"優柔不断"になる。これはある種の先送りであり、1対1ならまだしも、2人相手では通用しない。


「「それで、どっちにするんですか!!」」

「あぁ、うん。予算オーバーだから、安い方で」

「よっし!!」

「くぅっ、一生の不覚」


 どんな一生だよ!


 ともあれ、僕は思考停止して師匠が選んだ若干安い『細身の黒縁メガネ』を選んだ。これがギャルゲーなら重要なルート分岐だったのだろうが…………そんなものは知らん! 凡人の僕には予算オーバーコレ以上角の立たない言い訳は思いつかなかった。


「それではコチラのフレームでご用意しますね」

「お、お願いします」

「…………」


 今、店員が小声で『リア重死ね』と言った気がしたのだが…………たぶん気のせいだろう。




 こうして僕は、師匠が選んだメガネを(来週あたり)手にする。

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