#043 本心と立ち位置
「…………」
今日も今日とて休み時間は寝たフリでやり過ごす僕。最近は師匠が絡んでくるのでそれもなかなか出来ずにいたが、当人がいなければ元通り。僕がクラスで浮いた存在であるのはかわらない。
「ねえ、最近菊本さん、付き合い悪いわよね」
「シャルちゃんに付き合って第二美術部とつるんでいるからね」
「それにしたって……。もしかしてオタク趣味に目覚めちゃったとか?」
「なにそれウケる~」
なにやら本人(委員長)が居ない隙を見て陰口? をたたいているようだ。最近は小説の事もあって裏ではよくやり取りをしているのだが、委員長はもともと、僕やオタク文化を毛嫌いしていた筆頭であり、数ある女子グループの一柱をになっていた存在だ。
「マジなはなし、隠れオタクだって噂もあるみたいよ? なんでも、妹も漫画を描いてるらしいし」
「オタク田を散々叩いておいて、その実、自分もオタクだってこと?」
ちなみに妹さんはイラスト専門で漫画は描いていない。そのあたり鉄オタだとよく聞く話だが、それぞれ明確にジャンルが違うのに、周囲からはひと絡げに扱われてしまう。
「下手にオタクだなんて言ったら立場が悪くなるし、分かるけどね~」
「そういうの、ダブスタって言うんでしょ? ちょっとダサくない??」
僕はオタク趣味を崇高なものでは無く、あくまでサブカルでありアンダーグラウンドなものととらえているので、変に権威や有用性を主張するつもりは無い。しかし下世話なものでも世の中の下部分を支えているのは事実であり、出来れば触れずに放置しておいてほしい。
ぶっちゃけ僕も、お前たちの世界に興味はないから。
「シャルちゃんオタクだから、下手に隠すよりも(シャルに)取り入った方がイイって判断なんじゃない?」
「(派閥の)鞍替えってこと? やめてよ今更」
「シャルちゃんはイイけど、それでオタク田とか男子連中が調子にのられちゃね~」
「「…………」」
思いっきりクラスメイトに聞かれているのだが…………牽制とばかりに言いはなつ女子グループ。僕のクラスはもともと女性グループが強かった。そこに現れたのが師匠であり、持ち前のコミュ強ムーブで偏ったパワーバランスを修正してしまった。
彼女たちはそのせいで優位なポジションを失ったグループであり、本心では師匠の事すら快く思っていないのだろう。
「(アイツラ、シャルちゃんが居ないからって本性を出してきたな)」
「(相手にするなよ。かかわるだけ損だ)」
「(わかってるって。たく、なんで女はすぐ、派閥とか価値で上下をつけたがるかな)」
対して男子は、本人に聞こえない音量で言い返す。寝たふりをしている僕が言えた義理は無いが…………男はどうしても全体を見て"事なかれ"的な選択肢を選びやすく、結果的に立場を悪くしてしまう。
「いや~、まさかあんなにプリントが溜まっていたなんて」
「ほんと、助かったわ。シャルちゃん、それに菊本さんもありがとう」
「シャルちゃん! 皆もおかえり~」
日直の仕事を手伝っていた師匠たちが戻ってきた。そしてそれまで教室に籠っていた悪い空気を振り払うかのように、大勢のクラスメイトが師匠たちに群がる。
このクラスは(流行っている有名作品は別にして、コアな)オタク文化を毛嫌いしている。しかしそれは本質的な問題ではない。彼らが求めているのは調和と居心地。その証拠に師匠はガチなオタクだが、あからさまに師匠を排除しようという動きはない。それはその方が居心地がいいからであり、大半はそこまでオタク文化を嫌っていない中立派なのだから。
「(まったく、可愛いからって)」
「(ほんとよ。胸は私の方が大きいし、付き合うなら、絶対私の方がイイんだから)」
「(結局、男なんて顔しか見ていないバカなのよ。つか、男のレベルが低すぎるのよ。相手の内面や将来性まで考えれば……。……)」
あれだけ大声で話していた女子グループの声が、恐ろしく小さくなった。つか、間違ってもお前らは選ばないし、選ぶやつがいたら本気で『見る目が無い』と思うのだが…………そうでも言って自己肯定しないとチッポケで脆いプライドがもたないのだろう。
誇れるものが何もない、薄っぺらい人間だから。
「そうだジュン!」
「ひゃうん!!?」
「ちょっとシャル! だから行き成り抱き着くのはやめなさいって」
「いいじゃないですか。なんならミサオもやりますか? ジュンのリアクションは毎回面白いですよ」
「それは! そうかもだけど……」
僕の平穏な休憩時間が、爆音とともに崩れ去っていく。べつに嫌なわけではないのだが…………僕をオモチャにして盛り上がるのは程々にしてほしい。
「「(くそっ! オタク田ばっかり……))」」
あと、本気の殺意を向けるのも。
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