#044 目標
「……ヒット数があがってきましたね」
「ようやく、軌道にのったって感じか」
今日も部活動として(後輩中心の)レビューブログ班と作業に取り組む。
「アンチも落ち着いてきたよな」
「いい加減あきらめたんだろ? 知らんけど」
一時はアンチの工作に悩まされたが、雨降って地固まる。最近は応援してくれるコメントや、単純にPV数も伸びて安定している。
「つか、そろそろ黒字化出来たんじゃね?」
「あぁ~、どうなんだろう? ストック分とかも含めると微妙な気もするけど、それでも黒っちゃ黒か」
そう、ブログは黒字化に成功した。もちろんまだ微々たるものだけど、ジャンル的に今後もジワ伸びが期待できるだけに一安心ってところだ。
「いや~、長かったな。もっと簡単に稼げるものだと思っていたよ」
「ホントだよ。まぁまだ生活できるって程じゃないけど」
「つまり、これからって事だな」
じっさいココがスタートラインなのだが、僕の感覚としては『(黒字化は)思ったよりも早かった』。そこはアンチの出現も大きく、だからこそ炎上商法に走ってしまうストリーマーが絶えないのだろう。
「それでどうするんだ?」
「え?」
「ほら、お前、自分でもやってみるって言ってたじゃん」
「あぁ~、まぁ、どうなんだろう? 今はいいかな。部活(での作業)だけでお腹いっぱいって感じ」
「ぶっちゃけ、効率最悪だしな」
諸説あるが、こういう活動で稼げるのは『全体の1%程度』なんて話も聞く。力の入れよう(投資)や元々の知名度などでも変わるが、基本的に茨の道で、成功しても稼げる額は知れている。あくまで"内職"であり、過信は禁物なのだ。
「オタク田、ちょっといい?」
「あぁ、大丈夫だよ」
そうこうしていると委員長が話しかけてきた。一時は第二美術部に入り浸っていた委員長だが、最近は風紀委員の仕事や、妹さんとの秘密会議もあって、居たり居なかったりだ。
「その、ココじゃなくて……」
「あぁ、じゃあ外で話そうか」
「「…………」」
連れ出される僕だが、とうぜん淡い期待なんてない。いや、悪い予感もしていないのだが…………委員長の呼び出しは基本100%実利目的なので、わりと淡々と用件を済ませて終わる事が多い。あくまで、"わりと"だが。
「その…………友達の話なんだけど……」
「あぁ、うん。そっちね」
これはハズレパターンだ。単純で汎用的な内容ならすぐに終わるのだが…………BLネタが絡んでくると話が間接的になって進行速度も悪くなる。
「?? まぁその、ちょっと悩んでいて。私としては……。……」
ようするに、考えた展開の反応がイマイチだったようだ。一応コメントは貰えているようだが、まだまだサンプル数が少なく、鵜呑みに出来ない状態らしい。
「僕の考えは、やっぱり作品の軸がブレるのはNG。反応がイマイチでも、委員長が"良い"と思ったものを発信し続けるべきだよ」
「それは、まぁ、そうなんだけど」
とはいえ、数ある展開で全てにおいてクライマックスを配置するのは無理だし、時には挑戦というか、問いを投げかけたり、反応目当てでネタに走る時だってある。
「それじゃあいっそ、誤字とかでコメントを誘ってみる?」
「いや、そういうのは……」
小説のコメントは、やはり誤字報告が書き込みやすく、そういうところが切っ掛けとなって質問や応援メッセージが増えていく。
委員長は基本的に完璧主義者なので、投稿前のチェックは念入りにしているらしいのだが…………そこに力を入れすぎると時間や労力をとられるし、説明が念入りになり過ぎて話の"勢い"が削がれてしまう。
「まぁ僕もそういうのはやらないけどね」
「え? それじゃあどうやって反応を確認しているのよ??」
「していないよ」
「え??」
「一話一話細かく反応を見比べたりなんてしない。シリーズそのものがスベる事もあるけど、僕はそのくらいの感覚で反応を見てる」
むしろ全部スベっているというか、そもそもランキングの上位に食い込めるような作品は、まだ1つも出せていない。つか、聞くこと自体が『どうなの?』って話だが…………そこは委員長も『僕だけに聞いている』なんて事は無いはずだ。
「つまり、焦りすぎって事?」
「端的に言えば。あとはまぁ、そもそも投稿開始したての素人に、そんなにコメントがつく事なんて無いから…………むしろ凄いっていうか、恵まれている方なんじゃない?」
「それは、でも……。しかし……」
ようするに"納得"であり、心にスッと入ってくる意見が聞けて、(解消ではなく)悩まなくなればいいのだ。そこには時間が必要になる事もあるし、状況なんかも重要になる。
「委員長ってさ……」
「??」
「今、絶対的に信じてるっていうか、この人! って言える相手がいないんじゃない? 好きな作家とか、参考サイトとか」
「それは…………そうかも」
ブレるなと言うのは容易いが、そもそも立っているところがグラグラで、自分を支えられるほどの信念や経験もない。学校で習ったわけでもなく、素人が手探りでやっているんだからブレて当然なのだ。
「自分の方向性が定まらないなら、まずは1つ、基準にする"何か"を定めるのが良いんじゃない?」
「それは…………そうかも!!」
足元だけみて真っすぐ歩こうとしても案外出来ないもの。こういう時は遠くの目標に目を向けるのが良かったりする。
「まぁ、僕も底辺(投稿者)だから鵜呑みにされても困るんだけどね」
「それは、まぁ、そうかもだけど…………アンタやっぱり、そういう才能あるわよね」
「え?」
「その、なんて言ったらいいか…………部活もそうだけど、プロデュースって言うか、企画とか補助とか、裏方向きなのよ」
「それは…………誉め言葉として、受け取っておくよ」
上手い返しが思いつかず、思わずそれっぽいセリフが出てしまった。こういうとっさのアドリブが弱いのは、本当にどうにかしたい。
「やっぱりアンタ、アシスタントになりなさい。私が売れたら、一生、コキ使ってあげるから」
「その時は…………お願いしようかな? 委員長はともかく、僕は何かバズって有名になるとか、正直無いと思うし」
そんなこんなで委員長の相談にのったわけだが…………この日から相談や、他愛のないやり取りの頻度は明確に増えたと思う。
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