#042 青い春の1ページ
「うぅ、朝日が…………ライフが……」
ゾンビを思わせる足取りで、僕は今日も学校へと向かう。まぁ、ようするに"登校"だ。
「スキあり!!」
「ひゃうん!?」
「ニシシ、ジュン、お早うございます」
ボヤケタ思考が一瞬で覚醒する。つか! 今、カンチョーされなかった?? ダメだ、記憶と思考が追い付かない。
「えっと、おはよう。その、珍しいね、こんな時間に」
「はい。今日は寝坊してしまい、気づけばこんな時間デス」
こんな事を言っているが、師匠はいつも遅刻ギリギリで眠そうに登校してくる。まぁ、眠そうなのは僕も同じだけど。
「それにしては早いし、今日は心なしか元気だね」
「はい! ジュンに会えましたからね!!」
そういって手を組んだ状態で人差し指を向けてくる師匠。それは僕が小学生のころに見たイタズラの仕草であり、中学にあがってから、とくに美少女がやっているのを見る事は無いと思っていた構えだ。
「その、心臓に悪いから、えっと、二度としないでね」
「えぇ~、私、こういうの憧れていたのに」
「いや、でも……」
師匠のオタク知識は絶妙に古い。まだアニメが1年サイクルを標準としていた時代は、回の水増しで『シャックリが100回続くと死ぬ』とか『頭を打ち付けた拍子に人格が入れ替わる』なんて無茶苦茶な話が平然とあった。とうぜん倫理観も古く、平然と昼間の番組で女性の乳房がポロってしまう事もあれば、洒落にならない過激な演出も許されていた。
「それならジュンもやりますか? ジュンなら…………イイですよ」
「いや、それをやったら僕の人生が終わるから」
嫌らしい笑みを浮かべてお尻を突き出す師匠。冗談だと思うが、もし僕がマに受けてしまったら、手元がくるったら、とは考えないのだろうか。
「むぅ~、やっぱりジュンは他人行儀です。けっこう、打ち解けてきたと思ったのに」
「いや、打ち解けてもやらないよ?」
師匠のカンチョーを喰らったのはコレがはじめてだが、どうやら仕掛けるタイミングを前々から見計らっていたようだ。本当に、見た目は美少女、中身はクソガキだ。
「はぁ~、それじゃあしばらくお預けですね。私、お尻でもOKなので」
「はい??」
「コチラの話です。それより……」
「??」
「ジュンはもう、スマホは使えるんですよね?」
「あぁ、うん。基本はWi-Fiだけど、いちおう使えるよ」
本当に今更だ。今更なのだが…………1つ、バタバタしていて有耶無耶になっていたことがある。
「いいかげん、教えてくれませんか? はつでn、じゃなかった作業の邪魔はしないので」
「あぁ、うん。交換しようか」
実はまだ、師匠とはアドレスを交換していなかったのだ。
「これで毎日、下着の色を報告できますね」
「うん、やっぱり教えない」
「そんなぁ~、冗談ですよ~~」
いや、正直、冗談に聞こえない。色くらいなら平気で教えるよ、この美少女。
「僕も全部マに受けているわけじゃないけど…………そういう冗談は言わない方が良いよ。とくに男は、すぐに勘違いしちゃうから」
「分かっていますよ、それくらい」
「それは…………そうだったね」
師匠はモテる。僕が知っているだけで、もう3回は告白されている。すべて断っているようだが、ようするに『そういうキャラなだけで、その気はない』のだ。最近は勘違いされないよう、男子に対しての距離感には気をつかっているようだが…………それでも根っこの部分はクソガキであり、本気でバカがやり合える相手を求めてしまう。
「ほら、スマホ。番号と、あとはリンクーアドレスも教えておくから。節度は守ってね」
「はい! 毎晩かけます!!」
「話、聞いてた?」
「えへへ~」
まったく、この美少女は本当に思春期の少年の心を弄ぶのが上手い。そうやって男友達みたいなノリで懐に潜り込んで、ハートを奪い去っていくのだ。僕が硬派な二次元美少女好きオタクでなければ、とっくに陥落していただろう。
そんなこんなで今日も、他愛のない日常を繰り返す。まぁ、灰色だったものが気がつけば青く輝いていたが…………そこは深く考えない事にしている。
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