#041 オメーさてはアンチだな!?

「先輩、これ……」

「またか。たぶん同一人物だろうな」


 今日も部室でレビューブログの記事をまとめていると、サイトをチェックしていた1年に声をかけられた。


「一応IDは違いますけど…………どうなんでしょう?」

「ひとまずそのアカウントはブロックで。コメントはしばらく残しておいていいから」


 まぁ要するに、最近アンチコメントが増えてきたって話だ。この手の書き込みの対処は幾つかあるが、ウチは『最初(と思われるもの)だけ返信して、その後はアカウントブロック。コメントは時間差で削除する』方針で動いている。


「そんなブロックばかりして、不評を買わないの? 自信があるなら、正面から(コメントを)論破すればいいじゃない」

「ウチみたいな弱小レビューが炎上とかないから。あと、こういう相手は理屈じゃないから、話が通じるとは思わない方が良いよ」


 触らぬ神に祟りなしではないが、やはり無視が効果的な手合いは一定数いる。このアンチも、コメントではもっともらしいツッコミを入れているが…………実際はこのレビューの主旨や評価基準を理解できないわけではない。


 コイツの狙いは印象操作や八つ当たり。いくら論理だてて説明しても、訳の分からない反論を繰り返す。何故なら最初から疑問なんて持っていない、あるいは批判するために適当に問題をあげているだけなのだから。その目的は論破や記事の印象を貶める事。そしてなにより精神的勝利が狙いなのだ。


「それはそうかもだけど…………そのやり取りを見ている人だっているかもしれないじゃない」


 妙に噛みついてくるのは委員長。委員長は最近ようやくオリジナル小説を公開したそうだ。内容は教えてもらえていないが、まぁ、言えないって事はBLアレだろう。


 それはさて置き、委員長は真面目なので全てのコメントにシッカリとした返信を返していく方針なのだろう。それ自体は悪いことではないのだが、さけるリソースには限界がある。作品が伸びてくれば必ずどこかで線引きしなくてはならなくなるし、何より(数が増えると)コメントの質も落ちて解読や返し方に悩む事も増える。


「相手はたぶん同業者だよ」

「え?」

「同じようなレビューをあげていたのに、後追いの僕たちのほうが人気が出てきたから、妬みや八つ当たりで噛みついているんだ」

「そんなこと…………あるかもしれないけど、そうじゃない可能性だって」

「そうだね。でも、理由は違っても同じだよ。それに本当に見ている人がいるのなら、残したコメントで事情は察せられるはずさ」

「それは、そうかもだけど……」


 たしかに僕たちのレビューの掘り下げは甘い。知識量や文章力だってしょせん中学生レベルだ。しかし世の中には、前置きや無駄なウンチクを嫌う層が一定数いるし、難しい言葉で語れば良いってものでもない。


「重要なのは趣味嗜好が合わない人に対応する事じゃない。今まで掴んできたファンのために持ち味を守り、安定してコンテンツを発信していく事だよ。委員長だって、読んでいた作品が急に路線変更したら困惑するよね?」

「それは…………そうかも」


 ウチのターゲットは『お金の無い若いライトユーザー』であり、分かりやすい文章や(パソコンではなく)スマホで毎日気軽にチェックできるくらいの情報量が受けている。


 もしこれをアンチに流されて変更してしまえば、今のファンは離れてしまうし、そのアンチの方向性にあうフォロワーをまた最初から集めなおさなければならない。


「ミサオ、先輩ジュンの言う事は聞いておくものですよ」

「それはそうかもだけど…………その、私が参考にしている人が……」

「「あぁ~」」


 委員長が妙に噛みついてきた事情が見えてきた。ようするに『自分が推し(参考にしている作家)の意見を妄信していた』ようだ。これはアンチとは逆の"信者"であり、これはこれで正常な判断ができなくなるので問題だ。


「その人が何て言っていたかは知らないけど、人なら間違える事や、言葉が足りずに誤解させてしまう事はあるはずだ。それになにより、そういう記事を書いているなら、構成や大人の事情であるていど忖度した事をいうことだってある」

「そうですね。ウチ(のレビュー)だって、クソゲーをボロクソのクソミソシルのクソミソピクニックに批判するのは避けています」

「え? ピクニック??」

「「そっちは知らないんだ……」」

「え? ええ??」


 このネタは誰もが知る定番だと思うのだが…………委員長はまだ綺麗なBLしか見ていない、いや、ネタとしての"ホモ"をまだよく知らないようだ。BLが綺麗かどうかはさておき、少なくともホモというジャンルは汚物が詰み上がるディープな環境で、妙な愛好家が絶えない不思議空間となっている。


「おっと、ビースト田所の話をしているのかな? それなら私も!」


 まだビーストのくだりに辿り着いていないのだが、その空気を察知して動画投稿担当の部長が話に絡んできた。


「いいよ、こいよ」

「いくいく~」

「え? 何の話なの??」

「いや、委員長は知らなくてもいいから」




 こうして今日も第二美術部の活動は、盛大に脱線して思うようにすすまなかった。

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