#039 ゲーム配信
「それじゃあ僕は防御重視にするから、皆は魔力中心にあげていってね」
「回復は、任せてください!」
「えっと、ショートカットってどこ??」
僕は部長と師匠を連れ、インターネット喫茶でオンラインゲームをしていた。
「まだ今は何も無いから、まずは初心者研修をクリアしてフィールドに行こう。そこからは別行動で各職の転職クエストを受けるって流れだから」
「は~ぃ。こういうゲームは初めてなので、ワクワクしますね」
「はわわ、たっ君、どこ~~」
プレイしているのはトワイライトキングダムのネット喫茶専用版。ネット喫茶では各種オンラインゲームも体験できるのだが、なかには布教で特別仕様のアカウントを公開しているタイトルもある。まぁ要するに、新規限定で(導入部分を)サクっと楽しめる激安プレイチケットだ。
『ねえ、そろそろ準備できた?』
『ごめん、もう少し待機していて』
『了解』
そうこうしていると委員長からリンクーでメッセージが届いた。
今回の企画、もちろん目的はゲームではない。ゲーム配信の体験として、実際にゲームをプレイして、その状況を離れた相手に伝えるテストだ。
「それじゃあチャットソフトでゲーム画面をキャプチャーして」
「は~ぃ」
「え!? 死んじゃった? ちょ、これ、どうしたらいいの??」
ともあれ、いちおうゲーム配信などは校則違反なのであくまで疑似体験。まずはオンライン会議用のソフトでゲーム画面を取り込み音声とあわせて共有する。あとは僕がその中から必要な画面を纏めて"配信画面"を組み上げる。
「それじゃあ、妹さんに繋ぐから。そのままプレイして」
「ジュンジュン、見てください、僧侶になりましたよ!」
「ねぇ、もしかしてココ、魔法使いの転職場所じゃないんじゃない??」
思いっきりグダリ倒しているが…………それはさて置き、画面共有などは最初に設定してしまえばあとはただのテレビ電話。纏めた映像をさらに別のソフトで共有して、部長の家で待機している委員長や妹さんに受け取ってもらう。
『もしもし、声、聞こえている? こっちはちゃんと見えているわよ』
「こっちもOK。声のバランスはどう?」
『ちょっとゲームの音がうるさいかな? あとはチャットで指示するね』
「了解」
使っているのは会議用のソフトなので、そのままでは画面や音声を共有してしまう。そのため委員長には画面と音声の発信をOFFにしてもらい、コメントのみで参加してもらう。これでゲーム配信する状況を疑似的に再現できるわけだ。
「それじゃあ、ここからは配信しているって設定で進めていくから」
「ミサオ、カグラ、見えていますか~? 私が活躍できたら、投げ銭してくださいね」
「え? そんなことまで出来るの??」
「できません。あと、身内ネタや乞食行為は禁止。見ている人は不特定多数の"誰か"なんだから」
「「はぁ~~ぃ」」
実際に配信されているものや、相手の状況が分からないので何とも言えないが…………配信とはそういうものであり、最終調整はコメントやスマホなどで確認する形になる。
『なんだか声がガビガビなんですけど』
「すいません。マイクかソフトのせいかも。聞き取りにくいかもしれないけど、そこは我慢してください」
『了解』
ゲームにパソコンのリソースをとられている可能性もあるが…………そこはまぁ本題とは関係ないので我慢してもらう。今回は無料ソフトの組み合わせて再現しているので、送れる画像や音声に制限がかけられてしまう。
「アハハ、それじゃあ今度は見殺しにするね」
「コメントにこたえる時は、まずそのコメントを読み上げる癖をつけてね」
「は~ぃ」
「ねぇ、たっ君。これ、どうしたらいいの?」
「配信で名前は出さないように」
「そうでした」
「あと、そろそろ回復して貰えないと死にそうなんですけど」
「アハハハァ~」
自由奔放に動き回る師匠に、神がかったミスを連発する部長。単純にゲームを攻略するなら不安しかないメンバーだが…………中途半端なプレイングを見せられるよりはこっちの方が見ていて盛り上がるのも事実。そういう意味ではこの2人、ゲーム配信向けと言えよう。
そんなこんなで僕たちは、疑似的ではあるが実際にゲームをプレイし、離れた相手に状況を配信した。
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