#031 初

 あれからゲームのレビューブログを開設し、僕は順調に赤字を垂れ流していた。まぁ、そもそも収益が還元されるのにかなりのタイムラグがあるので、そこは当然として受け止めている。


「ん~、待ち合わせの場所。ここであってるよね? もしかして寝坊??」


 それはさて置き、僕は家から台車をもって近くの公園に来ていた。目的は委員長のお姉さんのパソコンの回収。ひとまずパソコンを預かって『どのくらいの価値があるのか』、あとは調子が悪いそうなので『いくらかければ実用レベルの性能にもっていけるのか』などを調べ、最終的には2人にそれぞれカスタムしたパソコンを用意する。


「ねぇねぇ、そこのキミ、もしかしてキミがオタクダ君、だったりする?」

「え? あぁ、多久田ですけど、その、たぶん僕の事かと」


 そこに現れたのは見知らぬ女性。年齢は…………たぶん二十代後半くらい。しかしながら派手と言うか、胸の谷間を強調するファッションは、とても社会人って感じではない。大学生か、あるいはモデルかなにかだろうか?


「へ~、なるほどね。いいじゃんいいじゃん」

「えっと、その、お姉さん、僕に何かようですか?」

「おぉ! ボクっこ! いいねいいね」


 なんだろうこの人。どことなく、第一美術部の人たちに近いサムシングを感じる。


「その、もしかしなくても…………委員長、じゃなかった、えっと、菊本さんの……」

「あぁ、ごめんごめん。私、菊本うい、操の姉だよ」

「あぁ、やっぱり」


 思ったよりも年が離れていたから困惑したが(パソコンの所有者である)お姉さんであっていたようだ。


「つか、操、委員長って呼ばれてるんだ。うける~」

「いえ、その……」

「いや、良いんじゃない? 私もここぞって時に、使わせてもらうよ」

「それは、出来ればやめてください。そのあと僕がどうなるか分からないので」


 委員長は、自分やその家族の事をあまり話さない。しかし実際にお姉さんに会ってみて、何となくだが理由の一端は分かった気がする。


「え~、まぁいいや。せっかくだし、どこかでお茶でもしない? お姉さん、奢っちゃうよ」

「えっと、パソコンは……」

「あぁ、そうだった! そういえばそんな話もあったね」

「はぁ」


 まぁ、パソコンに興味がないのは珍しい話ではない。思いっきり本題だと思うのだが、それでもこういう思考の人は、じっさい結構いる。


「それじゃあ家に…………あぁ、でも、先に行くと荷物が」

「あの、ミサオさんは?」

「あぁ~、どうだったかな~」


 思いっきり視線を泳がせるお姉さん。一応、今回の話は『委員長とメールでやり取りをして日時を決めた』のだが…………もしかして。


「もしかして、あのメール、お姉さんが?」

「あ~ん、お姉さん呼びもいいけど、出来れば"ウイお姉ちゃん"が、イイな~」


 当初は午後を予定していたのだが、メールで"午前"に変更された。僕としては早い方が助かるので快諾したが…………どうやらそのメールは、お姉さんが送ったものだったようだ。


「もしかして何か用事でも頼んで、午前中は委員ちょ…………ミサオさん、家にいなかったりします?」

「アハハ、キミ、勘が良いね。ちなみにお名前は?」

「えっと、純一です。多久田、純一」

「ふ~ん、じゃあ、純君だね」

「え? ちょ……」


 そう言って腕をとり、胸を押し付けてくるお姉さん。僕としては、悪い気はしないどころか嬉しいかぎりなのだが、その前にまず、頭がショートして思考がまとまらない。


「あはは、顔、真っ赤だよ? やっぱり、童貞なんだね??」

「え? あ、ええ??」

「ねえ、お姉さんとイイ事しない? 操には、秘密にしておいて、あげるから」

「えっ? それって……」

「ちょっと待ったぁぁぁぁあああ!!」

「「!!!!??」」


 ご町内に響き渡る声で止めに駆け付けたのは委員長。たぶん冗談だと思うけど…………もしかしたら僕は、一生に一度のチャンスを逃してしまったかもしれない。


「用事も無いのに(午前中に)起きてるなんて不自然だと思ったら……」

「ちぇ~、バレちゃった」


 本気で拳を震わせ、殺気を向けてくる委員長。そしてそれを涼しい顔で受け流すお姉さん。出会った時も思ったがこの2人、部長と同じで『姉に問題があって、妹がしっかり者に育ったパターン』のようだ。


「オタク田!」

「はい!?」

「あんた、もし姉さんに私が居ないところで会ったら、全力で逃げなさい!」

「えぇ?」

「この女、見境なしなのよ!」

「えぇ~、そんな、尻軽じゃないよ~」

「姉さんが尻軽じゃなきゃ、何が尻軽だって言うの!!」

「だって私、年下の童貞限定だし」

「そういう問題じゃ、ないからっ!!」




 委員長には同情するが…………もし僕の人生が、このまま『年齢=彼女いない歴』で終わるようなら、僕は委員長を恨むと思う。わりと本気で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る