#030 身の丈にあった規模
「……にしたって、もう少しなんとかならないのかよ?」
「今時100円で、何が買えるって話だよな」
準備も一通り終わり、部で(帰宅部も含めて)ゲームレビューブログの企画を説明する事となった。
「100円は、あくまでレビューを提供して貰った対価です。用紙1枚で100円は妥当だと考えていますし…………それ以上というなら無理にお願いするつもりはありません」
「チッ! 足元見やがって」
提供してもらうレビューは、(自由に感想を述べるのではなく)専用用紙の項目を埋めていく形にし、客観的な評価・情報の羅列になるよう心掛けた。もちろん人によって好みや偏見は出てしまうだろうが、そこは編集などで補正するつもりだ。
「これだけ(100円)しか出せないって言うのなら、俺たち、自分で動画を作ってもいいんだぜ?」
「そうだな。俺たちが本気を出したら、あっと言う間に人気ストリーマーの仲間入りだ!」
「もちろん、自分でやりたいなら止めません。どうぞ、ご自由に」
無駄にマウントをとりにくる輩が出てくるのは想定済み。動画とブログ、現実と理想の認識がズレているが…………この人たちは取り込んでも害悪なので候補者から外してしまう。
「チッ! やり方がわかっていたら、とっくにやってるっての(やるとは言っていない)」
「そもそもこの企画は(お小遣い稼ぎの為ではなく)部活動やその設備拡充のためにやる企画なので…………いくら儲かっても、皆に直接還元されることはありません。それこそレビューも無料でお願いしたいのが本音です」
本当はあとから権利だ分け前だとゴネられないための保険なのだが、そこはわざわざ言及しない。
「そういえば目標はパソコンだったわね。それじゃあ(100円)でも、仕方ないか」
「いちおう補足すると…………そもそもレビューを投稿しても儲けは無いです」
「「はい??」」
いまどきSNSや動画投稿サイトでそれらの投稿を見た事が無い人はいないだろうが…………その実情を正しく認識する者は少ない。
「基本的にポッと出の投稿で得られるフォロワーなんて10人いけば良い方。収益なんて1本100円どころか収益化審査すら通せません」
「はぁ!? そんなわけ……」
「嘘だと思うのなら、調べてください」
「え? いや、その……」
結局、見えているのは上澄みの成功者だけ。そしてロクに調べもせず『やれば成功する』と思ってしまう。その気持ちは分からなくもないが、実際やろうとして調べていくうちに、あるいは実際にやってみると嫌ってほど思い知らされる。
レビューをブログ形式にしたのもそのためで、たしかに人気が出て続ける前提なら分母(視聴者の絶対数)が多い動画の方が儲かるのだが…………動画投稿は手間や技術・機材的なハードルが高く、くわえて収益化審査やライバル投稿者との競争などもある。その点ブログなら気軽に始めて、ダメなら軌道修正も比較的容易だ。
「そういえばフォロワーの多いアカウントは高値で売れるって聞いたな。それだけ、1から始めるのは難しいんだろうな」
「まぁ、俺は100円でもイイけどな。ゲームなら毎日やっているし、それもほとんど親に買って貰ったものだ。それが用紙1枚穴埋めするだけで100円になるってんだから丸儲けだ」
「たしかに……」
「ぶっちゃけ、動画編集とか、出来る気がしないしな」
だから、ブログなんだって。ブログと動画の違いが分からないわけではないのだろうが…………完全に『レビュー = 動画 = ストリーマー』の構図が擦り込まれてしまっている。
「それより! シャル先輩も参加するんですよね!?」
「ほぇ!?」
一歩引いた位置で傍観していた師匠が、とつぜんの指名に素っ頓狂な声と涎を漏らす。ちなみにこの企画、師匠的にはオタク度が低いせいか微妙にノリが悪い。
「私! シャル先輩と編集作業に参加したいです!!」
「それなら私も!」
「まてよ、俺だって!!」
「いや、私は、よく分からないので、ジュンに……」
「はい、かいさ~ん」
「なんだ、シャル先輩が参加しないなら」
僕の名前が出た途端、空気が一気に白ける。中には本当に帰る者まで。
「その、待ってく……」
「いや、いいから。無理に引きとめなくても」
僕としても、やる気のない人に適当なレビューを提出されて、修正作業に手間と時間を浪費する展開は避けたい。ブログを選んだ理由はそこにもあって、ぶっちゃけ僕は個人的な活動があるのでこの企画にさける時間はほとんど無い。
基本的には部活の時間を利用して編集し、出来れば誰か後任に託すつもりだ。今のところ、アテはないんだけど。
「その、質問してもいいですか?」
「あぁ、続けようか」
次々と帰る帰宅部をしりめに、残ったのは1年生を中心とした3人。(あとは部室に残って少し離れて聞き耳を立てている人が数名)思うところが無いと言えばウソになるが…………どうせ沢山集まっても処理しきれないので、これが僕の『身の丈にあった規模』なんだと思って納得する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます