#029 副業

 第二美術部の問題をおさらいすると……。

①、本格的な作業ができるパソコンが無い。師匠が持ってきてくれているノートパソコンや、裏技としてポータブルストレージにデータを保存して備え付けのパソコンで操作する方法もあるが、やはり部室なのに部室で(本格的な)作業ができない状況は問題だ。


②、幽霊部員の多さ。幽霊部員にかんしては学校側もあるていど目を瞑ってくれているが、そのせいで部の"成果"が乏しくなり、部費や各種許可がおりにくくなっている。つまり実績さえあげれば、備え付けのパソコンを弄る許可がおりるかもしれないのだ。


③、成果を発表する場所や、中学生としてできる活動の限界。成果さえあればいくらか活動しやすくなるわけだが、かといって(他の部と違って)デジタル系の芸術部門は学校間で競い合う場が極端に乏しい。つまり、そもそもジャンルとして肩身が狭いのだ。そのため外部コンクールに挑戦するなら大人と競い合わなければならないし、学校側も課外授業として承認しづらく(必要かは別として)合宿や遠征などの許可がおりない。



「ここの地の文だけど、主人公の心情だから口語にして、逆にコッチは解説だから無感情な俯瞰の……。……」

「意外と、小説もルールが多いのね」

「べつに絶対こうしなければいけないってわけじゃないけど…………定番のスタイルはあるから、とくにこだわりが無ければ……。……」


 今日は備え付けのパソコンで委員長に、実戦を交えた小説の書き方を指導している。部室のパソコンに各種ソフトをインストールすることはできないが、テキスト入力くらいなら最初から入っているソフトで事足りる。


「ところで、さっきから何を見ているの?」

「あぁ、コレ? 前にこのパソコンを使った人の履歴が残っていたから」


 委員長が作業している横で、僕はパソコン内に残っている履歴を盗み見ていた。これでもしアダルトサイトに飛んでしまったら大惨事なのだが…………さすがにそんなヘマはしない。たぶん3年の選択授業だと思うけど、ローカル環境でブログらしきものを作っていたようだ。


「勝手にイジっていいの? 怒られない??」

「大丈夫だよ、見ているのはキャッシュデータやゴミ箱に破棄されたものだから。マスターデータは当然個人で保管しているでしょ?」

「あぁ、その、まぁ、大丈夫ならいいんだけど」


 大半は理解できなかった様子だが、それでも僕の"大丈夫"は信じてもらえたようだ。


 ちなみに部室のパソコンは、授業用に購入されたものであり、授業で使うであろうソフトは入っている。基本的にはオフィス系のソフトになるのだが、3年になると選択授業である程度砕けた内容にも対応してくれる。


「ちなみに委員長は……」

「??」

「ブログとか動画投稿で稼ぐのって、どう思う?」

「その…………正直、羨ましい、かな?」


 意外な答えだ。委員長は真面目で、地に足をつけた職業しか認めないような印象があった。


「そういえば小説も、収益化を目指すんだよね」

「そうね。それで生活できるなんて、思ってはいないけど」

「生活って、わりとガチめに考えている証拠だよね」

「なっ! ……悪い? 出来るなら、私だって会社に属さず、マイペースに働きたいわよ」

「委員長ってさ、もしかして自分一人だと、とことん手抜きしちゃうタイプだったりする?」

「…………」


 ノーコメントって事は、そういう事なんだろう。


「部のパソコンの話なんだけどさ、1つ、アイディアを考えてきたんだよね」

「………………」


 部の目標の1つに『専用パソコンを設置する』がある。今は師匠のノートもあるが、やはり指導できる人材と機材は必要であり、それがなかった去年は本当に部が部として機能していなかった。


「ゲームのレビューブログで、基本的に中古で安くなった旧作を紹介していくんだ」

「それ、いちいち買って、クリアするの?」

「もちろん。ネタバレになっちゃうからストーリー解説は序盤のみになるだろうけど、ちゃんとクリアしての感想にするよ。こういうのって積み重ねだから、そこは誠実にいかなくちゃね」

「不可能よ。1本クリアするのに、何時間かかると思っているの? それとも、他の活動を全部やめるか、それこそニートにでもなるつもり?」

「それもしない。そのかわり……」

「クリアするのは他の人に丸投げするつもり」

「え??」


 ようするに、帰宅部連中にゲームをクリアさせて、その感想を纏めてもらう。あとは回収した感想をコッチでテンプレ化して発信するのだ。


「報酬として100円は払う。もちろん100円じゃあジュースも買えやしないけど、ワンコインで買えるタイトルなら感想文1つで20%オフでしょ?」

「まぁ、それなら……」


 人を使う対価として100円はあまりにも安いが、相手はバイトも出来ない中学生であり、なおかつゲームならいくらか親に買って貰えるし、自分でも安いものなら買うだろう。そこにきて用紙1枚ていど記入すれば報酬が支払われるわけだ。


 全員が群がるまではいかなくとも、数人は参加するだろう。最初のうちはそれで充分だし、ブログが育って収益が増えれば、それにあわせて報酬も増額できる。それこそレビュアーをランク分けして、ランクに合わせて報酬を増額してもいい。


「メインはブログだけど、動画版を作ってもいい。それこそ(動画投稿を専攻している)部長に任せたりね」

「その、それって大丈夫なの? 税金の問題とか」

「この程度の金額なら大丈夫だよ。月収が1万円をこえてくると注意する必要があるけど。小説の収益も、基本的にランキング圏外は非課税だよ。ランカーになったり、受賞して書籍化したりして、ようやく課税ラインに乗る感じ」

「その…………そういうトコ詳しいの、ホント、助かるわ」

「あぁ、うん」




 そんなこんなで第二美術部は、金策としてゲームレビューを投稿する事となった。

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