#028 周辺機器

「これでアカウントは作れたから、あとはココで書いたものを投稿するだけだね」

「おぉ、こ、これで私も……」


 今日は部室で、委員長に具体的な『小説投稿サイトの利用法』を説明していた。


「一応、スマホからでも操作できるけど、やっぱりパソコンや…………あと、投稿する作品が無いとだけど」

「そ、それくらい分かっているわよ!」

「あぁ、うん。そうだね」


 なぜ先走って踏み込んだ説明をしているかと言えば、保留になっていた委員長のパソコン問題がようやく解決…………の、目どがたったからだ。


「つか、その前にタイピングよね。その、出来ないわけじゃ、ないんだけど」

「ブラインドタッチは慣れだから、やりながら上達していくしかないかな」


 委員長のお姉さんのパソコンは、予想通り学校の斡旋で購入したBTOだった。それは現在、調子が悪くなったこともあり使っていないのだが…………それを回収して妹さんのイラスト用パソコンに改造する。委員長はその対価とお小遣いを合わせて、安価なミニパソコン一式をそろえる計画だ。


「その、タイピングソフト? 練習するヤツも買った方が良いのかしら??」

「探せばフリーソフトもあると思うけど…………明確にやりたい事があるなら、実戦で覚えるのが1番早いんじゃないかな? タイピングゲームって、練習する動機づけのためにある感じだし」


 小説を書くならタイピング速度は重要だ。より正確に言うなら、タイピングに脳のリソースを割く状態では作品に集中できない。僕はいろいろやっているうちに『気がついていたら覚えていた』口だが…………たぶん、このパターンが多数派だと思う。


「そういえば、キーボードって面白い形のものも売っていますが、どうなんでしょう?」

「あぁ、いわゆる変態キーボードか」

「ヘンタイって……」

「なんだか、ワクワクしますね!」

「しないから」


 あいかわらず、イカガワしい響きに敏感な師匠と、逆にあからさまに拒絶反応をしめす委員長。


「結論から言うと、小説を書く用途なら"無し"かな。動画編集とかゲームなどで特定のキーを多用するならあっても良いかもだけど…………長時間、それも正確性を重視するなら、僕は標準規格のものを正しく覚えて使いこなす方が良いと思うよ」

「そうね。私もフォーマルなところから覚えたいかな」

「えぇ~」

「あと、純粋に割高だし。変なヤツは」

「「あぁ」」


 もちろん、極めればワンオフで自分にあったものを作れる自作キーボードは強いのだろうが、そこまでお金が出せないなら規格モノを使うのが安定だ。それこそそこで変な癖がついたら一生苦労するだろうし。


「キーボードもいいけど、私としては早くモニターを何とかするのをオススメするかな? テレビってやっぱりダメだわ」

「そうなんですか? たしかに、良くはないでしょうけど」


 話にまじってきたのは部長。部長は動画編集のためにパソコン本体に全振りしたため、モニターはテレビを代用する形になった。キーボードやマウスは、新品ではあるものの激安の粗悪品だが、ひとまず用途的にも酷使しないので何とかなっている。しかしテレビはあくまでテレビであり、パソコンのモニターとして使うには何かと不都合が多い。


「動画編集につかうなら、テレビの解像度は地獄ですからね。でも、小説なら低解像度や…………それこそ発色が悪くても問題無いから、思い切って安いのを買っちゃうのは、たしかにありかも」

「まぁ、色は関係ないわよね。いちおう酷すぎるのは、ちょっと嫌だけど」


 動画編集は、作った動画をひたすら何度も見返す作業になるのだが、低解像度モニターだとその確認作業が満足にできない。逆に高解像度モニターなら、動画を画面内に実寸大で表示してもまだ操作バーを表示する余裕がうまれる。この違いは非常に大きく…………この前貸したモニターを体験したことにより、部長は今まで『いかに不便な環境で作業していたか』を自覚してしまった。


「ほんとうにあんな環境、知らなければ……」

「「…………」」

「えっと、それなら絵を描くのも、解像度の高いモニターの方が良いんじゃない?」

「そうですね。現在、交渉中です」

「あぁ、うん。頑張ってね」

「はい!」


 妹さんは(姉と違って)もともとパソコンを持っていなかった事もあり、親から多めに予算がおりてくる見込みだ。そのかわり…………おねだりとしてお父さんに毎日サービスしているらしい。思春期に入って素っ気なくなってきた娘がかまってくれるのだから、父親として悪い気はしないだろう。しかしすべてが終わったあとの展開を考えると、男として同情を禁じ得ない。


「お姉さんのパソコン、価値があるとイイですね」

「ほんとうに、そこよね」


 お姉さんのパソコンは、今のところ写真で外見を確認しただけだが…………妹さんの予算と合わせて、委員長の支払い金額が変化する。つまり、上手くいけば(中古だけど)ダダで一式手に入るわけで、中学生としてこの差は、その後の生活を大きく左右する。


 まぁ、それでもキーボードだけはあるていど良いものに交換するべきだと思うが。


「大丈夫ですよ。もし予算が足りなくなったら…………私も協力するので、体で払いましょう!」

「うぅ、シャル、ありがとう。……ん? 今、何て言った??」

「ふゅ~、ふふふゅ~~」

「吹けていないから!」


 体で払うって、いったいナニをしてもらえるのだろう? 口には出せないが、男として、興味はある。すごく。




 そんなこんなで僕は、今日も師匠の意味深な発言に振り回されて、眠れない夜をすごす事になるのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る