#027 正義は無敵

 僕、多久田純一には悩みがある。立て続けに2つの他部活との交流を経験したわけだが…………たしかに文芸部との体験は充実していた。僕は小説専門ではないが、また機会があれば交流してみたいと思えている。


 しかしその裏で、第一美術部との交流も悪くなかったと思っている自分がいる。いや、あれは悪いものだという認識は変わっていないのだが…………男の本能か、あるいはオタクや根源的な自分の本能あくまが囁くのか。女性に囲まれ、エロい目を向けられる体験が、忘れられないのだ。


「ふぅ~~」

「ひゃわわ!!?」

「にしし~。いいリアクションですね、ジュン」


 そんな事を考えていると師匠に、耳に吐息を吹きかけられてしまった。これもそうだ。表面的には嫌なのに、同時に喜んでいる自分がいる。


「その、不意打ちは、やめてよ……」

「あはは、それは無理な話です。なにせジュンをイジるのは私の生甲斐ですからね」

「それって、その僕が……」

「かわりに! ジュンもしていいですよ!!」

「へぇ?」

「だから~。耳ふ~~~、です!」

「ひゃわわわ!!?」


 すこぶる楽しそうな師匠。最初はクラスメイトも止めに入っていたが、いつしかツッコミにつかれて呆れ顔で放置するようになった。


「まったく、飽きないわね」

「委員長ぉ……」

「次は、ミサオですね!」

「ちょ!? だめ、耳は…………ヒャうん。ちょ、オタク田、助け……アァん!」


 訂正しよう。委員長は今もなお止めに入ってくれる。しかし昔と違い、その理由は助け船的な印象が感じとれる。


「(チッ! オタク田の癖に……)」

「(アイツばっかり、何でだよ!)」


 ただし男子生徒からは、恨みと言うか、殺気立った視線を感じる機会が増えた。


「ごめん委員長。僕は男だから、自分から女の子に触れられないんだ。あと、宗教上の理由でもユリには触れられなくて」

「なにヨ宗教って!」


 両手をあげて全面降伏をアピールする。僕はオタクだが、だからこそわきまえた紳士でもある。師匠(女性)がスキンシップで男性に触れるのは問題無いが、僕(男性)からとなればそれはセクハラであり…………それがさらに、女性同士の絡みあいともなれば、それはもう現行犯で即刻処刑確定の大罪となる。


 つか、マジな話、女の子の触り方がわからない。


「おっと、無防備な脇、発見です!!」

「え? ちょま、そこは、らメ!!」


 可愛い事をいいことに、クラスで傍若無人のかぎりを尽くす師匠。しかし偉人は言った。『カワイイは正義』であると。


「おい、いつまで乳繰り合ってんだ。授業の時間だぞ」


 チャイムが鳴り、あきれ顔でやってきた先生。クラスメイトもそうだが、師匠の扱いは先生たちも心得てきた感がでてきた。


「すいません! でも、ジュンの乳はまだ触ってないので、触ってみたいです!!」

「はぁ~~。真面目に授業を受けてくれるなら、特別に許可しよう」

「イエッス!!」

「ちょ、先生!!」

「多久田、お前は先生に感謝しとけ」

「え!? だめ、そこは……」




 そんなこんなで僕は今日も、正義の前に敗れ去った。

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