#013 第二美術部専用PC③
「どうせ、楽しみ過ぎて眠れなかったとかかな……」
「え? あぁ、そうかもね」
委員長の、会話なのか独り言なのか分からない言葉を、僕は慌ててかえす。
「「…………」」
「ちょっとコンビニに行ってくるから、部長さんが来たらよろしく」
「あぁ、うん」
小走りで公園を離れる委員長。あの様子は、多分おしっこだと思う。公園内にもトイレはあるけど『トイレに入るところを見られたくないな~』とか思っていたら気になって尿意が増してしまったパターンだ。
「えっと…………あぁ、もう時間か」
気がつけば待ち合わせの時間。師匠はさて置き、部長まで遅刻なのは何とも締まらない。とも言え、しっかり者の妹さんが今日は用事で不参加なので、たぶんそれが影響しているのだろう。
「……たっ君、だよね?」
「そうですね。でも、気配を消して背後に立つのは、止めてくれませんか?」
訂正、すでに部長は居た。いや、今来たところなら遅刻判定でいいのだが…………帽子を深々とかぶり、無駄に大きなカバンを抱えている不審者。胸と後ろ髪が無ければ通報されかねないこの人こそが、第二美術部の部長だ。
「は~ぁ、よかった。別人だったら心臓止まってたよ」
「相変わらず…………でもないか。この感じ、なんだか久しぶりですね」
部長は人見知りだ。年下なら大丈夫なので3年になった今、部室でこのモードの部長を見る事はなくなったが…………前年度の、珍しく上の先輩が部室に居る時は常にこのモードだった。
「ふふん、遅れずに来れたみたいだね。ところでシャルちゃんは?」
「寝坊みたいです。まぁ、委員長が連絡を取ってくれているので、大丈夫だと思いますけど」
すこし持ち直し、自分の遅刻を棚にあげて仕切りだす部長。しかし手が、僕の袖から離れてくれない。
「そっか、道に迷っているとかじゃなくって良かったよ」
「それは…………大丈夫だと思いますけど、どうなんでしょう?」
スマホがあるなら大丈夫だと思うが、漫画に出てくるようなド級の方向音痴である可能性も否定しきれない。
一応、僕と師匠の家は比較的近いらしく、少し離れたところに委員長、そして部長はこの公園の近くに住んでいる。最初は委員長が師匠を迎えに行く話だったが、遠回りになるのと、道は分るとの証言を信じて現地集合となった。(同じ学区なので極端に離れてはいない)
「まぁ、少し待ってダメそうなら、アタシたちだけで行こうか。どうせ、まだ下見の段階だし」
「そうですね」
余談だが、前年度までの第二美術部は酷かった。顧問が常駐しておらず部費もないのは、あの人たちが築き上げた負の遺産だ。
『おい! なに余計な事してくれるんだ!!』
『マジでありえないんですけど。真面目に
『その…………すいま、せ”、ん』
第二美術部は設備の関係で、自宅での活動許可がおりやすい。つまり帰宅部の受け皿になっているのだが、それでも活動成果はあげなければならない。そんな中で、真面目に見栄えの良い成果をあげようとする者がいると、相対的にサボリが目立ち…………中には先生から指導を受ける際に、チクリと部活動のことも持ち出されてしまう。
『なにコイツ。急に泣き出したんですけど?』
『マジ最悪。そうやって泣いて、私たちを悪者にしようって作戦??』
『俺たち別に、悪いことは何もやっていないのに…………お前みたいなヤツが足を引っ張るから、悪者みたいに見られちまうんだよな』
完全なるトバッチリ。部活動をして怒られるいわれは無いし、先生に小言を言われるのは普段の生活態度が原因であって、直接的な原因ではない。アイツラは、他人の足を引っ張る事しかできない、無気力で無価値なヤツラだった。
「あっ、部長さん、おはようございます。シャルは…………さっき起きたみたいで」
「あぁうん。そうなんじゃないかって、今、話していたんだよ、"ね~"」
「そ、そうですね」
僕の顔を覗き込みながら同調を求める部長。部長は年下率があがって調子を取り戻してきたが、対する僕は女性率があがって落ち着かない。
いや、嬉しいには嬉しいんだけど、慣れないものは仕方ない。
「あと、思ったんだけどオタク田」
「はい?」
「あんた、やっぱりスマホ、買いなさいよ。たぶん(リサイクルショップなら)売っているだろうし」
「なになに!? たっ君スマホ買うの? それなら……。……!!」
盛り上がる女性陣。しょうじき僕もそれは考えていたが……。
そんなこんなで師匠が来るのを待つ時間は、思いのほか短く感じられた。
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