#014 第二美術部専用PC④

「スイマセン! 遅れてしまって!!」

「どうせ、楽しみ過ぎて眠れなかったんでしょ?」

「ハッ! なんでソレを!?」

「「やっぱり……」」


 公園で師匠と合流する。正直に言うと、今から向かうリサイクルショップは学校から比較的近いので…………クラスメイトに見つからないか、気になって仕方ない。そう、今、僕は女の子3人に囲まれている。これをモテ期と言うには語弊があるが、まず間違いなく僕の人生のピークだろう。


「それじゃあ早速…………たっ君のスマホを買いに、いっくよ~」

「え! ジュン、スマホを買うんですか!?」

「いや、ツッコミどころが多すぎるんだけど、とりあえず行こうか」


 前にスマホを買うって話になった時、親が『代わりにタブレットを購入する』案を快諾したのは、やはり"月額使用料"が問題だったのだと思う。もちろん格安シムを利用すればかなり安くなるが、それでも長い目で見ればバカに出来ない額になる。


「オタク田、アンタのタブレットってシムスロット付いてないの?」

「一応あるけど、出来ればスマホも欲しいかな? 安いのでいいから」


 委員長もパソコンの事を忘れているわけではないはずだけど、やはり分かる事かどうかの差は大きい。僕からすれば、スマホも地続きの技術なんだけど。


「それなら、私のと同じ機種を探しましょう! オソロイです!!」

「ダメよシャル! ……!?」

「……! ……??」


 なんだか話が頭に入らない。というか、近い! 下校時は委員長が師匠を引き離すので良かったが、今日は部長が僕の後ろで、左右には師匠と委員長。完全に命を刈り取る陣形だ。


「えっと、ここよね? なんだか、独特の雰囲気ですね」

「おぉ、オラ、ワクワクしてきたぞ!」

「ヒェ! 人、いるし……」


 入り口付近に積み上げられた雑多な大物たち。僕から見れば普通のリサイクルショップであり、異様さなら本格的なパソコンショップに及ばない。しかしながら普段この様な店に入る機会のない人には、この雰囲気は異質なのだろう。


「1階は普通の古着屋だよ。2階はちょっとアレだけど」

「あぁ、たしかに……」


 お店は2階建てで、1階は古着や生活家電。2階はホビーやパソコンなどの特殊家電。正直に言って品ぞろえはイマイチなのだが、下見ならココで充分だ。


「おぉ、ジュン! 見てください、フィギュアです、フィギュア!!」

「あぁ、うん。ゲームセンターの景品だね」


 入り口直ぐの階段にはショーケースが設置されており、見栄えの良い貴金属やフィギュアが飾られている。しかしながらそこは地方。そこまで珍しいものは無いし、値段も若干高い。


「ちょっと、あれ、パンツ見えてない?」

「おぉ、どれですか!? ぐぬぬ、絶妙に……」

「ちょっと、覗かなくていいから!!」

「「…………」」


 盛り上がる2人をよそ目に、周囲の目を気にして全く喋らない部長。一応、精神疾患レベルではないはずだが…………たぶん僕と同じで、クラスメイトに会わないか不安で仕方ないのだろう。『それの何が問題なんだ?』と思う人もいるだろうが、コミュ障のボッチにとって『出かけた先で知り合いに出会う』のは軽めの恐怖体験なのだ。


「部長、とりあえず2階うえに行きましょうか。あっちはまだ人も少ないですし」

「う、うん。でも……」


 視線の先にはスマホのショーケース。挙動に反して、まだ余裕はありそうだ。


「スマホは、買うならネットで買うので」

「えぇ、今、買わないの?」

「今買っても、シムがないと使えないですよ」

「それは、そうだけど……」

「そもそも……」

「??」

「アプリのやり取りなら、スマホが無くても出来ますし」

「え? どゆこと??」


 でた、ありがちな勘違い。スマホも電話回線の通信とパケット通信が分けられているが、家の有線通信やWi-Fiなど、それぞれの違いを理解しないまま使っている人は、じつは結構多い。


「リンクー(トークアプリ)は使っていますか?」

「うん、これ」


 タブレットを出し、部長とアドレスを交換する。回線契約こそしていないが、基本的にはスマホと同じものなので(オフラインでも)問題なく出来てしまう。


「あ、フリーWi-Fiをひろった。今なら、通話も出来ますよ」

「えぇ~、できるなら、言ってよ! もぉ~~」


 1ミリも怖さのない怒り顔が向けられる。




 そんなこんなで僕は、師匠が必死にフィギュアのパンツを覗こうとしているのをよそに、部長とアドレスを交換した。

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