#012 第二美術部専用PC②

「はぁ~~。服、変じゃないよね?」


 もう、何度目のため息だろう? 僕は1人、公園のベンチでソワソワしていた。


「えっと、まだ30分もあるのか……」


 さすがに早く来すぎた。


 僕たちはあれから、部に設置するパソコンを調達するべく、休日にリサイクルショップを見に行くこととなった。まぁ、ようするに…………女の子と待ち合わせしているわけだ。こんなことは当然初めてであり、1時間も前から待ち合わせ場所に来てしまった。


「なんだオタク田、もう来てたんだ」

「え? あぁ、委員長!」


 30分をすぎたところでやってきたのは委員長。1人で心細かったので安心できる反面、2人っきりで何を話していいか分からない相手なので、その、どうしたものか……。


「校外で委員長は…………って、アンタに名前を呼ばれるよりはマシか」

「え、あぁ、ごめん」

「「…………」」


 会話、終了。ここから30分、この空気を耐えなければならない。


「シャル、たぶん、まだ起きていないよ」

「え? あぁ、そうなんだ。ありがと」


 スマホをいじっていたようだが、どうやら師匠の状況を確認していたようだ。


「てっきり、もう(シャルとアドレスを)交換しているものだと思っていたわ」

「僕、スマホ持っていないから」

「そっ」


 なんで! なんで僕はスマホを持っていないんだ!!


 いや、ウチでもスマホを持つって話は出たのだ。出たのだが…………その時の僕は、あろうことか断って代わりにタブレットを買って貰った。どうせ学校では使えないし、Wi-Fiが繋がる場所ならスマホのように使えるので、友達の居ない僕にはなんの支障もなかった。


「その……」

「…………」

「いや、何でもないです」


 流れに乗って話しかけようとしたけど、無理でした。まぁ、あれだ。スマホをいじっている人に話しかけるのって、失礼だよね? そういう事にしておいてほしい。


「なんで敬語? その…………姉さんの事は、たぶんダメだと思うわ」

「そうだよね。まぁ、普通はそうだと思うよ」


 委員長のお姉さんは大きなパソコンを持っているそうだが、どうもアテに出来ないらしい。正直なところ、この展開は予想していた。


 多分だが、大学の斡旋か何かで買ったBTO(用途に合わせて販売店がカスタマイズしたモデル)でも持っていたのだろう。一応、分類としては自作パソコンの範疇だが、本人に知識が無いのでパーツ交換などはされるはずもなく、パーツのお下がりも期待できない。


「でも、その……」

「??」

「何でもない。わすれて」


 委員長は、お姉さんの事となると途端に歯切れが悪くなる。たぶん、プライベートな秘密をペラペラ喋ってしまうタイプなんじゃないかと予想している。


「もしかして、パソコンを見てほしいとか言われた?」

「ぐっ」

「ありがちな相談だからね」


 パソコンってのは突然使えなくなる事もあるが、大抵は徐々に調子が悪くなっていくもの。『突然動かなくなった』という人も、実はその予兆に気づけなかったパターンが多い。


 僕も専門家では無いし、失敗する事も多いので、出来れば購入店に持ち込んでもらいたいところだが…………購入からしばらくたっているとサポートは有料になるし、いざ修理となれば数日間パソコンを預けなければならない。


「なんか、本当に調子悪いらしいんだけど…………頼まれても、断ればいいから」

「そもそも頼まれようが無いけどね」

「それは、そうなんだけど……」


 ここまで挙動不審だと、逆に気になってしまう。ともあれ、僕もよそ様の家庭に首を突っ込むほど、お人好しでも無ければ、興味もない。


「その、僕にも分からない事はあるけど、一応、パソコンのアドレスを教えておくから…………本当にヤバいと思ったら、委員長の判断でって形でもいいよ?」

「それは…………その、お願い、します」


 ペコリと頭をさげる委員長。いくら嫌っていても、やはり根は真面目。おまけに、本当に困っていたら見捨てられないお人よしだ。




 こうして僕は、意外な事に師匠よりも先に委員長とアドレス交換をしてしまった。

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