#011 第二美術部専用PC

「ジュンって、いがいと歩くの遅いんですね」

「いや、そういうわけじゃ……」


 下校途中。当然ながら帰るタイミングは同じであり、途中まで同じ道を通ることになる。


「シャル。日本では、男女が共に登下校するのは、ちょっと、その、恥ずかしいって言うか」

「あぁ、シャイなんですね」

「そう、それ!」


 委員長のフォローが有難い。もちろん僕も師匠と二人っきりで帰りたい気持ちはあるが、実際のところは照れ臭い気持ちが勝ってしまう。


「それなら、私が後ろを歩きましょう! 大和撫子たるもの、一歩後ろを……」

「まって、そんなオタク田と付き合っているみたいな。それに、ソレって私も付き合わないといけないやつよね?」

「エヘヘ、なんだかんだ言って、面倒見がいいですね」


 対して師匠と委員長は、息があってきた感がある。委員長は基本的にクラスメイトでも呼び捨てはしないタイプなのだが、師匠は(本人の意向もあって)呼び捨てになった。


「まったく。調子がいいんだから」

「そういえばミサオは、パソコンは持っていますか? 本格的なヤツ」

「え? いや、姉さんは持っているみたいだけど、私はスマホだけかな」

「そうですか。あれば、ミサオの家で活動できたのに」

「私、美術部じゃないけどね」


 ちなみに僕はパソコンを4台持っている。どれも自作パソコンをやっている兄さんに(何らかの形で対価は払ったけど)貰ったもので、どれも型落ちだけど詳しい人がカスタムしただけあって用途に合わせて尖った性能となっている。


「えっと、タブレットは持っているんだよね? それなら専用のペンを買えばある程度(のお絵描きは)出来ると思うよ」

「それは、そうかもですが……」


 師匠は引っ越しが多かった事もあり、嵩張るものはなかなか買ってもらえなかったそうだ。それは自腹でモノを買うのも含まれており、そのためお小遣いなどは動画配信サイトの有料コンテンツ視聴に使ってしまっていたらしい。


「シャル、アナタ本当は、創作活動がしたいんじゃなくて、仲間とワイワイやりたいだけなんじゃない?」

「それは……」

「「…………」」


 視線を逸らす師匠を見て、僕と委員長が全てを察する。


 師匠の家庭の事情は知らないけど、今時、パソコンなら本気で頼み込めば親も考えてくれるだろう。しかしそれをしてしまうと直接集まる必要は無くなり『真っすぐ帰宅して個別に作業を進める』状況になってしまう。それこそネットを通して、僕たちよりももっと有能な人と繋がることだってできるのだ。


「はぁ~~。そういえば、そこのところ部長さんはどうしているんだっけ? オタク田の課題もそうだけど、部長さんも、何かやるんでしょ?」

「えっと、部長はノート(パソコン)らしいけど、スペック的に限界があるみたいで、その、何とかしたいっていっていたけど…………どうなんだろう?」


 部長は1年のころに親におねだりしてノートパソコンを買って貰ったそうだが、残念ながら安いモデルだったらしい。一応、お小遣いでマイクなどは買い足しているそうだけど、やはりベース部分が弱いので性能や拡張性に限界を感じているようだ。


「オタク田、アンタ詳しいんでしょ? 何とかならないの??」

「何とかって、出来るけど……」

「え? 出来るの!?」


 そう、できるのだ。型落ちとはいえゲーミングパソコンを複数台持っているので、それこそ1台あげたところで困りはしない。しかし、それを無償で与えていいのかって問題は大きい。それぞれ家庭には教育方針があるし、『じゃあ私も』なんて言ってくる人がでてくる展開も目に見えている。


 と言うか、兄さんに相談した時『そうなるから絶対にやめろ』とクギを刺されてしまった。


「パソコンって高いものだからね。そんな、ホイホイあげられないよ」

「まぁ、それもそうね」

「あっ、そういえばミサオのお姉さん、持ってるって言ってましたよね!?」

「ぐっ!」


 委員長の顔が思いっきり曇る。そう言えばお姉さんがいる事は何となく知っていたけど、具体的にどんな人なのかは聞いた記憶がない。


「借りるのは難しいだろうけど、もしかしたら買い替えを予定しているかもだし、もしパーツが余っていたら僕の手持ちと合わせて、何とかなるかも」

「おぉ、そんな手が! ミサオ、いちど聞いてはもらえないでしょうか!?」


 本格的なパソコンほど寿命は短い。いや、使おうと思えば長く使えるけど、ハイスペックパソコンが必要な人は、定期的に買い替えてある程度新しい状態を維持するもの。


 それにパソコン1台丸々ってのは無理でも、パーツ単位なら僕も協力できる。それこそ、手に入ったパーツで足りない部分を僕が出せば良いわけだ。


「そうだね。それこそ皆で余っているパーツを持ち寄って、部にパソコンを1台置いても……」

「それです! そうしましょう!!」

「え? あぁ、うん。そうだね」


 適当に口から出た言葉が、師匠のハートを射止めてしまった。




 もちろんまだ、実行可能か分からない段階だけど…………それでも当面の活動方針は定まった。

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