#003 転校生はコミュ強でした

「しゃしゃしゃしゃしゃ、シャルさん!!」

「え?」


 休み時間、教室にこれでもかってほど上ずった声が響き渡った。


「アニメとか好きなんだよね!? お、俺も実はアニメ好きで…………その、イモトラも読んでいるんだ!!」

「「…………」」


 どこからどうみてもナンパです。いや、ナンパは言い過ぎか? 僕としても女性のオタク仲間が居てくれたらってのは理解できる。


「そうですか。ちなみに他はどうですか?」


 またしても宇宙刑事のポーズを決めるシャルルさん。"オタク"と言ってもジャンルは様々だが、ぶっちゃけ中2で特撮シリーズの旧作が条件なのはハードルが高過ぎると思う。


「え、それって…………もしかして、スーパー戦隊? その、最近は見ていないけど、ドライブ戦隊だったら分かるよ!」

「そうですか」


 宇宙刑事の表情をひと言であらわすなら『スーン』だろう。百歩譲って同じ基本ソロの仮面戦士シリーズと間違えるのならともかく、5人組前提の戦隊シリーズとポーズを見間違えるのはニワカ確定だ。


 というか、シャルルさんも最初から(オタク友達欲しさではなく)下心ありきなのを察していたのだろう。中身は男の子といっても、やはりあの容姿だ。ナンパ目的で話しかけてくるニワカオタクには事欠かなかったと思う。


「そそそ、それより! イモトラ好きなんだよね? その…………こ、コスプレとか……」

「ちょっと! そこまでよ!!」

「シャルちゃんが可愛いからって、セクハラ目的で……。……!?」

「…………」


 核心をつくと同時に、女子たちに連行されるニワカオタク。その姿を見送るシャルルさんの表情を見る限り、やはり脈無しだったのだろう。


「ごめんねシャルちゃん。アイツ、普段はあんなんじゃないんだけど」

「つか、アイツ、オタクだったんだな」

「コスプレとか、マジでキモいよね」


 このクラスでガチなオタクは僕1人だ。もちろんアイツみたいな隠れオタクは他にもいるんだろうけど、白い目を向けられながらもオタク趣味を貫いたのは僕1人だった。


「キモくないです」

「「え??」」

「コスプレは、キモくないです!!」


 ガチ目のオタクは僕1人だった。そして今日からは2人になった。


 いや、個人的にコスプレ(3次元)は興味ないし、それこそむさい男の女性キャラコスプレや、信念をもたないコスプレ喫茶やコスプレAVはやめてほしいと思っているのだが…………それはともかく、コスプレそのものを否定するのは僕も反対だ。


「いや、その…………私もハロウィンの仮装とかはイイと思うけど、アイツのはエロいこと前提で……」

「エロは! 悪いことではありません! それに、私もエッチな漫画は大好きです!!」


 つよい。堂々とオタク趣味を公言できるだけでも凄いのに、ここまで言えるのなら刑事どころか"師匠"と呼ぶのもやぶさかではない。


「えっと、シャルルさん、そういうのは、大きい声で言わない方が……」

「たしかに彼は気持ち悪かったですし、助けてくれた事には感謝します。ありがとう!!」

「え? あぁ、うん。どういたしまして」


 ここで素直にお礼が言えるのも強い。オタクがどうとかいぜんにコミュ強すぎる。


「ですが、他者ひとの趣味は尊重するべきですし、皆さんも、自分の趣味に誇りを持つべきです!」

「それは…………そうかもだけど……」


 女子グループが完全に押されている。このクラス、たしかに女子の影響力が強く、気にくわない相手を弾圧するような素振りも見せるが…………だからといって漫画に出てくるガチモノの意地悪グループまではいかない。


「私はアニメや漫画が好きです。美少女も大好きです! だから私は! 皆さんとも仲良くなりたいです!!」

「え? あぁ…………その、私も、シャルちゃんと、仲良くなりたいかな」


 女子グループの手と、おまけにハートもガッチリ掴む師匠。言っている事は一歩間違えばレズビアンだが…………ヴァーチャルアイドルがリアルに顕現したみたいで、なんというか、トウトミノカタマリだ。




 そんなこんなでコミュ強の師匠の言動は浮きまくってはいるものの、クラスの女子とも上手くやれているようだ。

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