#002 嵐を呼ぶ転校生

「ぬふふふ。ふふ~ん」

「えっと、シャルルさん、さっきから、ちょっと気になるんだけど」


 お約束とばかりにシャルルさんの席は僕の隣に決まり、教科書を見せるシチュエーションになってしまった。


 しかし、何やらシャルルさんの挙動がおかしい。ニヤニヤというか、僕が何かするのを待っている感じだ。


「"さん"は要らないです。シャルか、ギャバンと呼んでください」

「じゃあ…………"刑事"で」

「ぐふふ、さすがはジュン。分かっていたのですね」

「い、いちおう……」


 地雷を踏んだ気分だ。僕もオタクとして多少の知識はあるけど、シャルルさんのラインナップについていける自信はない。と言うかそもそも! リアル美少女とお話しすること自体、メチャクチャ恥ずかしい!


「でもゴメンナサイ。ギャバンは1回しか見ていないんです」

「いや、1回でも見ているだけで凄いよ。僕なんて見た事もないし」

「そうなんですか? 日本の男の子は、特撮シリーズを最低3回は見返すって」

「それ、完全な誤情報だよ。オタクだからって全ジャンルに精通しているわけじゃないし」


 1つのシリーズを通しで1回見るだけでも20時間超になるのに、それを旧作まで網羅するとなれば、それはオタクじゃなくて特撮マニアだ。僕も特撮は嫌いじゃないけど、さすがにそこまで暇ではない。


「そうなんですか? そういえば、ジュンは萌え系でしたね」

「もえ…………いや、否定はしないけど」


 僕もオタク談議に花を咲かせられる相手の登場は好ましく思っている。しかし! リアル美少女とちょっとエッチな話をするのは別問題だ。正直、新手の拷問といっても差支えないだろう。


「それで! ジュンはかないのですか?」

「え? ノートなら……」

「そうではなくて、落書きです。さぁ、遠慮せず」

「それも、わりと拷問だからね」


 僕も練習をかねて漫画やアニメの落書きはするけど、ガチ目なヤツはさすがに自重している。(しないとは言っていない)


「大丈夫です。ドージンは上手くなくても。大切なのは"好き"って気持ちです!」

「あぁ、うん。それはそうかもだけど…………僕たち学生で、ここは学校だから」

「そうだぞ、シャルル君。授業中は、授業に集中しような」


 気がつけば先生が目の前にいた。幸い、これ以上怒られる事は無かったけど…………この宇宙刑事、(作品のみならず)どうもオタク文化そのものに強い憧れをもっているようだ。


 しかしオタクだからと言って皆が特撮を網羅しているわけでもなければ、販売できるレベルのイラストが描けるわけでもない。転校生がオタク趣味で、僕に友好的に接してくれるのは嬉しいけど…………僕は凡人。好きだから色々齧ってはいるけど、人様に見せられるような凄い物は生み出せない。もし、シャルルさんが本気で高いところを目指しているのなら、僕はかならず足手纏いになるだろう。


『オエカキしりとり、しましょう』

「え?」


 シャルルさんがノートに書き込んだメッセージを見せてくる。


 関係無いけど、漢字こそ使われていないものの日本語が書けるのに驚いてしまった。まぁ、考えてみれば当然で、日本語は普通に通じるし、何より一般校に入学出来るのだから書けて当然だ。


 そういえば…………フランス"出身"ってことだからフランス"育ち"とは限らないわけだ。それこそ『フランス出身の日本育ち』の可能性だってあるわけで。


「(さぁ、私のお尻を…………貰ってください)」


 意味深な囁きに一瞬、顔が赤くなるが…………ノートに描かれた嵐を呼ぶお尻星人が、その淡い感情を吹き飛ばしていく。


「(えっと、そのキャラの名前。最後が……)」

「はぁ!? そ、それでは…………ブリブリ~までで!!」

「シャルル君、それはフランス語か? それともトイレに行きたいのかい??」


 金髪美少女のブリブリ発言に教室が沸き立つ。




 そして僕は思った。シャルルさんの中身は完全に"男の子"だと。

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