オタク田君の平凡な日常。

行記(yuki)

#001 その名は、シャルル・ギャバン!!

 自慢ではないが、僕は何処にでもいる平凡なオタク男子だ。特技などあるはずもなく、人付き合いも苦手。このまま僕の人生は、なんの波風もたたないまま終わるのだろう。


「それじゃあ、新学期そうそうだけど、転入生を紹介するわよ。留学生のシャルちゃんです」

「みなさ~ん、コンニチハ! 私は"シャルル・ギャバン"です! 好きなものはオタクカルチャーで~す!!」


(近況ノートにイメージイラストあり)


 多少気になるところはあるけど充分聞き取れる日本語。青い目に淡いブロンドの髪、まるでアニメの世界から抜け出してきたかのような美少女だが…………先ほどから伝わっていないであろう宇宙刑事のポーズを必死に決めている。


 つまるところ、転校生はバリバリのオタク女子だった。


「うおぉぉ、美少女キターー!!」

「はぁ~、可愛すぎ。とりあえず、私の妹になってくれる?」

「え? あぁ、うれしーで~す」


 沸き立つクラス。彼女も悪い気はしていないようだが…………その表情からは何か引っかかりを感じてしまう。


「シャルちゃんは家庭の都合で各地を転々とする生活をおくっていたの。日本語はある程度話せるけど、分からない事も……。……」


 彼女の生まれはフランスだが、家の都合で転校を繰り返していたためアニメを見て過ごすことが多かったそうだ。


「その、皆さんの中に、アニメ好きな人は……」

「バンピとか鬼狩り伝なら見てるぜ!」

「私、ポリキュアなら見てるけど、ダメかな!?」

「えっと、そう言うのじゃなくて……」


 残念ながらこのクラスで、ガチめなオタクは僕1人。もちろん流行りのゲームやアニメの話題はそれなりにあがる。しかし旧作や、それこそ創作活動までいくと話し相手が居なくなってしまう。


「それなら、オタク田が詳しいんじゃないか? 何せアイツ…………エロ漫画を描いているくらいだからな!!」

「なっ! だから"イモトラ"はエロ漫画じゃ!!」


 訂正しよう。話し相手が居ないどころか、居場所がない。どこのクラスにも居るのだろうが、僕は何かにつけてイジられるポジションになってしまったのだ。


 まぁ、僕も誇りというか、入学当初から逆張りで2次元美少女好きをアピールしてしまったので、女子を中心に嫌われてしまったのは当然の流れ。そしてイジられポジションになった僕の原因が『キモオタだから』なので、クラスメイトもガチなオタク向け作品の話題は出せなくなってしまった。


「おおっ! もしかしてオタク田さん、妹ラブる、読んでるですか!!?」

「えっと、僕の名前はタクタ、"多久田 純一たくた じゅんいち"、だから」


 彼女の表情に輝きが戻る。日本のアニメは世界的に評価されているらしいけど、ガチめのオタク作品が趣味なら話せる相手は限られただろう。


「ダメよシャルさん、オタク田にかかわっちゃ! その人、学校でもエッチな……」

「皆さん、ゴカイです! 妹ラブるは一般向けです! コミックでは乳首が見えるだけで!!」

「やっぱりエロ漫画じゃないか!!」


 フォローがまったくフォローになっていない。


「みんな、今はホームルームよ、静粛に!」




 こうして僕の平穏な日陰生活は、音をたてて崩れはじめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る