#004 第二美術部

「それで、シャルちゃんはどの部活に入るか決めているの? よかったら私とお……」

「それならもちろん! 漫研です!!」


 ウチの中学では部活動か委員会(生徒会や図書委員など)に所属しなくてはならないのだが、これは少しでも進学や就職を有利にするための措置で……。


「えっと、言いにくいんだけど…………ウチの学校、無いのよ」

「はい?」

「漫研」

「えっと…………ドウコウカイ?」

「同好会も無いわ。そもそもお遊びっぽい部活全般がNGなのよ」


 もちろん中には、"実質"帰宅部や活動実績がほぼ無いお遊びクラブは存在する。しかしそれでも、履歴書にそれらしい文言を追加するためにブランド力のない部活は設立すらできないのだ。


「そ、そんな…………それでは、放課後、同志と語り合う夢は?」

「個人的なのはOKだけど、それを"部活動"とは認められないわね」


 ちなみに意味も無く教室に残っておしゃべりを続ける事も出来ない。もちろん、場所を変えればいい話なのだが…………師匠が求めているのは"代用手段"ではなく『アニメのワンシーンの再現』なのだろう。


「そんな…………それじゃあ私の、コスプレバンドで文化祭にでる夢が……」

「え? 漫研は??」


 その理由なら解説できるけど…………残念ながら僕はコミュ障なので心の中でツッコミを入れるだけに止めさせてもらう。


「そういえば、漫研みたいなところ、あったよね?」

「おぉ! それはどこですか!!」


 あと、ツッコミというか補足説明なら師匠『本人がしてよ!』と思ってしまうが…………カルチャーギャップと言うべきか、そもそも基準となる価値観や常識を共有できていないのと、単純に性格もあって出来ないようだ。


「ねぇオタク田。アンタ、たしか入っていたよね?」

「あ、その、"第二美術部"の事だよね」


 第二美術部とは、美術部のデジタル版で、ようするにCGとかブログなどのデジタルコンテンツにかんする部活だ。アニメと直接のかかわりはないが、美少女イラストやデジタル漫画なら活動の範疇として認められる。


「おぉ、そこなら漫研できますか!!?」

「えっと、お喋りじゃなくて、漫画やイラストを描くのならOKだよ」

「おぉ、やはりジュンです! いや、これからは"師匠"と呼ばせてください!!」

「ちょっと! 僕はそんなんじゃないから。描けると言っても、ほんとうに素人レベルだし」


 残念ながら僕は凡人だ。好きで色々齧っているので知識の幅はそれなりだけど、アニメの主人公みたいな"才能"はない。まぁその知識も、ジャンルしだいで師匠に負けそうだけど。


「それは重要ではありません。大切なのは"気持ち"と"行動"です!」

「えっと、それはそうだね」


 昔の人はアニメを見るとバカや犯罪者になると言っていたらしい。たしかにその分勉強時間を削ったなら"学習量"は落ちるだろうし、犯罪行為を美的に描いた作品があるのも事実だ。しかし、実際のアニメや漫画には多彩な価値観と道徳的表現が詰め込まれており…………その異なる世界を知る機会を提供し、時には吐けぐちにできる側面もある。


 そしてそんなアニメを見て育った師匠は(学習量はさておき)"人格者"と呼ぶに相応しい価値観と行動力を持っていると思う。


「よし、それじゃあ決まりだね。私が"付き添う"から」

「はい?」


 名乗りをあげたのは師匠をサポートしている女子グループのリーダー格。名前はたしか菊本 操きくもと みさおさんだったか。彼女は風紀委員会に所属しており、クラスではよく学級委員をさし措いて"委員長"と呼ばれている。


(近況ノートにイメージイラストあり)


「第二美術部も、新入部員を勧誘しているんでしょ?」

「それは…………大丈夫だと思うけど」


 新学期が始まったばかりのこの時期は、新入生勧誘のために部外者の出入りが自由になっている。基本的に1年を対象にしているのだが…………どうせどこかには所属しないといけないし、それに風紀委員が付き添うのも問題は無いだろう。


「まぁ、どうせホームルームで誰かに割り振られたとは思うから…………今回は私がソレに立候補するわ」

「おぉ、それではミサオ! よろしくお願いします」

「まだ正式決定じゃないけどね」




 こうして僕は放課後、第二美術部に2人を案内する事となった。

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