番外編 もし、会えたら

僕は、ある村に住んでいる子供だった。


「お父さんっ!!」


「どうした?なにか、聞きたいことでもあるのか?」


「うん。えぇとね....どうして、森には魔物が住んでいるの?」


「そりゃ、難しいことを聞くなぁ...なんで?なんでか?うーん、俺にも分からないなぁ...」


魔物は、凶悪だ。


とても恐ろしいけど、倒すと色々ないいことに繋がるってみんな言っている。


「おっ!そうだなぁ...あそこに、川が流れているだろ?なんで川が流れていると思う?」


「えぇ...分からないけど」


「俺たちが、水を飲むために流れているんだ。なにを隠そう、俺らが作った川だからなっ!!」


「ええぇっ!?そうだったの!?」


初めて聞く話だ。すごいっ!あの川っ!!お父さんが、ひいた川なんだっ!!


「おうっ!!そしてな?魔物っていうのも同じだ。あることは変わらない。なら、俺たちが工夫して自分たちのいい方向へと進ませる。それが重要なことだと思うんだ」


「えぇ...なんか、納得いかないよぉ....」


「はっはっはっ!!世の中は、分からないことだらけだぞ?そんなことを考えているよりも、なにか自分たちの利になることを考えていた方がいいじゃないか?って俺は思う。」


.....うん?


うん...そうなのかな...


「そうだな。お前は、もう時期兄になるだろ?そうなったら、色んなものを守らなきゃいけなくなる。」


うん....


「そうなったら、強くなくちゃいけないだろ?」


「そうだね。強くないと、守れないからっ!!」


「だったら、特訓しないとなっ!!どうだ?久々に剣術の稽古をしてやろう」


「うぇ...剣術は、苦手だよぉ....」


僕は、剣術はあまり得意じゃないんだ。それよりも、弓の方が向いてると最近思うようになってきた。


「むっ!?まぁ、お前は、ひょろひょろだからな。弓の腕はかなりのものだ。と聞いているがなぁ....」


「け、剣なんかなくったって!!守れるからいいんだよっ!!」


「そうか....?」


納得のいかない表情のお父さんに、僕はいい案を思いついた。

山の中に、小さな祠ほこらがある。その近くには、金銀財宝が山のように積み上がっている場所があるらしいぜ。


そんな噂を耳にした。


よしっ!!これだっ!!これしかないっ!!僕は、お父さんを見返すために冒険に出ることにした。





早朝に、お父さんとお母さんが寝ている間に、僕は弓を手に取って森へと向かった。いくつかの矢を筒に入れて、足音を立てずに歩いていく。


「.......」


途中、何匹かの小動物に出会ったが、僕の目的は噂の祠へと向かうことだから...矢に手をかけたくなる衝動を抑えて、歩き出した。




木の上で、朝食を取る。

小さな固めの黒パンに齧り付く。


食事を、取らないなんていうのは、いざと言う時に上手く動けなくなる。


そういうことで、死んでいった狩人の人達を僕達は笑う。


「こんな鉄則も守れないようじゃ、狩人失格だからね」


・優先順位は、きちんと付けること。

・常に、音は立てないこと。

・必ず道に迷わないように印を作ること。


そういう細かいことを徹底して行っていた。


これは、村にやってきた引退した冒険者の方々の教えだ。


急ごう。


短い水色の髪を風になびかせて、走り抜ける。







「こんな所に、開けた花畑があるなんてね。中々いい雰囲気だなぁ。妹が大きくなったらここに来てもいいかもしれない」


大きな木が立っている場所で一休みしながら、心地のいい空気にふと、眠気が襲ってくる。


「い、いけない。こんなことしてる場合じゃないんだ。お父さんに、度胸があることを見せるんだ。それが、第一の優先度だっただろ。」


ばっと飛び起きて、再び祠を探す。

念の為持ってきたパンは、数個だけ...

二・三個あたりになってきたら、帰ろう。


そうやって心に言い聞かせて走る。







祠らしきものを見つけたけど...


んー、金銀財宝っていうのは、どこにあるんだ?


大きな森の中に入っていくと、魔物の数が異様に増えた。むしろ、小動物を見ることがなくなったと言えるかな。


「いつ、なにか変なことが起きてもおかしくない。大丈夫...変なことは、起きるわけないから」


自分に言い聞かす。


予め、周辺に魔物がいないことは、確認しているため...祠に近寄ってみる。


んー、こんなところに人が作ったようなものがある方がおかしいんだよなぁ...

まるで、誰かが注意をしているような...


「....っ!?!」


突然足元に魔法陣が浮かび上がると、そのまま少年の姿は消えてしまった。





暑い....



異様な暑さが、暗がりの中に感じていた。


「ここは、どこだ?」


奥から、赤い色のなにかが吹き出しているのが見える。


ドラゴンが火を吹いているようにも見える。



「人の子か?」


「....誰だ?」


穴の中から、声がする。


ギョロと音がしそうなほどの大きな瞳孔が、穴を塞ぐように僕を見てきた。


「っ....!?!?!」


お、驚いた。


「りゅ、龍?」


「む、お前の言うそれとは、違うものよ。正確には、竜だ。この世の中に龍なぞいない。」


「.....おとぎ話で聞いたんだ.....」


「ふんっ!!どうでもいいことだが....お前は、なぜ我が祠へとやってきた?」


あれが、このドラゴンが作った祠?それにしては、人工的ななにかを感じたが。


「ふむ。昔、人間を脅して作らせたんだ。他の竜たちがうるさく言っていたがな。無視してやったわ」


「そ....そうなんだ。」


竜に、脅された方もたまったものでは、なかっただろう。


「実は、僕は金銀財宝があるって聞いてここにやってきたんだ。お父さんに僕のことを見返すために、度胸があるんだっ!!って言いたくて」


「ふむ....ここまで、来たと」


「そ...そうだっ!!」


「くくくっ...つまらない考えをしておるな」


「な....!!」


なんで、竜に罵倒されなきゃいけないんだ。


「ぼ、僕は、真面目なんだぞっ!!」


そういうと、穴から目を離して、ドラゴンがどこかへと消える。


しばらくすると、カランとなにかが穴から投げられた。


「こ、これは?」


それは、金色の綺麗なお皿だった。


まさか、ドラゴンからこんなものを投げられるとは思わなかった。


「ふんっ!!お前如き...その程度で十分であろう」


「本当かっ!?ありがとうっ!!こんないい物をもらっても、いいのか?」


「あ、あぁ....ただし、他のものには、絶対にやるなよ?お主に上げたものだからな。大事にするんだぞ」


「うんっ!!大事にするよっ!!絶対にっ!!」


青い色の髪が、風圧でゆらゆらと揺れる。


少しだけ目を細めたドラゴンは、そのまま消えていく。


「ありがとうっ!!」


そういうと、再び魔法陣が起動して、消えてしまった。


「人間と話をすると、飽きないな。まぁ、これで別のものに渡りでもしたら、その時はそのものの全てを奪うがな。」


クハッハッハッ!!それは、竜にとっての道楽であった。






あの祠から、出てからというもの、異様に体が重い。まるで、なにかに体が蝕まれているような気がする。


「はぁはぁ...はぁ...こんなところで」


ぼやけた視界に、魔物...?を捉える。


僕は、震える手で弓を放つ。腕がいいと言われるだけあって、狙い違わず、射抜いていく。


「はぁはぁ....暑い....」


腕を動かし、手を動かして...必死にもがく...足が重たくなってきた。


足が解れて、倒れてしまう。


「あ.....」


気付けばあの花畑までやってきていたみたいだ。僕は、服に付けた金のお皿を数回撫で付ける。


「やったよ。僕....度胸あったかな?お父さん?」


息をするのすら、ままならない。


あ、魔物。射らないと、手を弓へと向けようとするが、意識がなくなりつつあるのか。もはや、1ミリも動かない。


「......が.......ん....ばた....よね.....」


空へと、手を伸ばす。

できるなら....生まれる子供が、弟なのか。妹なのかくらい知りたかったな.....




Anotherstory スライムくんがスライムくんになる前の物語

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る