第7話 もしもし警察ですか? この自称エクソシストさん、男子トイレを盗撮しています
サキュバスを退治したいという自称エクソシストの土志田さん。
対して俺はサキュバスを自称する矢走さんを守る決意を固めた。
だって俺が充実した日々を送れているのは矢走さんに救われたから。
たとえ彼女がサキュバスだったとしても、土志田さんに売るつもりはない。
まさか目の前の男が敵側についているとは思わない土志田さん。話を進める。
「そして次。どうして私が番条君の色恋沙汰をおおよそ言い当てることができたのか」
それも気になっていた話。矢走さんとの関係はまだ誰にも知られていないはず。
「言っておくがこの目で確かめたわけじゃないよ。あくまで推理だった」
「その推理を聞かせてくれよ」
問いに、土志田さんは人差し指を俺に向けた。
「まあ一言で言うなら、君がサキュバスにとって極上の餌だということだ」
餌? どういうことだ?
「だから美女との交際を言い当てることができたんだ。サキュバスは極上の餌である君に必ずアプローチを仕掛けてくる。外見だけはご立派なサキュバスを前にした童貞の君は一目ぼれ。結果、餌を求めるサキュバスとモテない童貞クンの不釣り合いなカップルが誕生するはず。そう思ってカマをかけたのだが、読み通りだったというわけだ」
「ちょ、ちょっと待てよ! 筋書きは理解できるけど、前提条件がおかしだろ! どうして俺が狙われないといけないんだ」
泣く子も黙る強面クンだぞ。俺よりも魅力的な男子はいくらでもいる。サキュバスに狙われる道理がない。
「なるほど。まずはそこの説明をした方がいいか」
土志田さんはそう言うと、鞄からタブレットを取り出した。
「この一年間サキュバスを探してきたわけだが、人間に擬態して息をひそめる淫魔はそう簡単に見つからない。苦心した私は逆転の発想に行きついたんだ。サキュバスが見つからないのなら、サキュバスが狙うであろう男に張り込めばいいと」
飛んでいるカブトムシを追いかけるよりも、樹液たっぷりの木の前で待ち伏せしたほうが捕まえやすいということか。
「サキュバスはオスの精液が目的だ。それもただの精液ではなく、より高品質なものを求めるという。だからより純度が高くよりたくさんの精液を作れる性欲旺盛男子高校生が闊歩する高校に忍び込んだわけだがね」
「すまし顔でとんでもないことを言うな……」
「奴らはより高品質な精液を生み出す男を標的にする。だったら私がその男を先に見つけ出せばいい。そうすれば、あとは近づいてきた女子を警戒すればいいだけ」
「といってもその……こ、高品質な精液を作る男子ってどうやって――」
「一説にはデカい奴ほどいいらしい」
「土志田さんには恥じらいってものがないのかな?」
なんで初めて会話する女の子と一物の話をしなくちゃいけないんだ。しかも男の俺が押され気味だし。
「しかし大変なのが、どうやってブツのサイズを確認するかだった。ズボン越しに見ようにもまるで分らない。凝視していたら手で隠されるし、触ろうとしたら逃げられるし」
「何やってんだよお前」
「そこで聡明な私はある作戦を実行した」
これを見てほしい、と手にしていたタブレットを差し出された。
動画だ。
再生ボタンを押すと、騒がしい音声とともに監視カメラのような頭上からの角度で男子小便器が並んでいる光景が映し出された。学校のトイレ。そして廊下から聞こえる雑談の数からして休憩時間と思われる。すこししてトイレに入ってきた男子たち。カメラの存在に気付くことなく便器前に立ち、放尿。ああ、なんということだ。角度的に無防備なブツが目視可能ではないか。いけない気持ちになっちゃう。
なるほどね。下校時間間近に男子トイレに忍び込んで天井の排気口にでもカメラを設置したんだ。この手法なら手軽にイチモツデータが手に入るわけね。かしこーい。
「盗撮じゃねえか!」
声を荒らげずにいられない。
「アウトだよ! 男女逆なら確実に逮捕だよ! いやもう男女逆じゃなくてもダメな時代だよ!」
「緊急事態だから仕方がない。サキュバスを退治しないと死人が出る恐れがあるからね。ほら、警察車両だって赤信号でも進むじゃないか」
「そのパトカーの目的地がここだよ! 捕まれ!」
「法律は一般人に適用されるもの。人類の裏側で悪魔と戦うエクソシストを縛ることなど断じてできないのだよ」
「かっこいいこと言ってるけど、やってること盗撮だからね」
これでまったく悪びれないのだから土志田さんはタチが悪い。
「こうして最もサキュバスに狙われそうな男子を割り出したわけだ」
「……それって」
「番条君。君だよ」
……まさかこんなところでアソコの大きさランキングを知ることになるとは。
「以上から君がサキュバスのターゲットになると判断したわけだ。納得できたかい?」
「過程は納得できないけどね」
警察だったら違法捜査で不起訴案件だろ。
まあとにかく。だいたい理解できた。
俺はサキュバスにとって極上の樹液。美女の姿をしたサキュバスが必ず交際を持ち掛けてくる。それを推理しての発言だったってことだ。
だったらひとまず安心できる。裏を返せば、誰と付き合っているのかまではまだ把握できていないのだから。そもそも矢走さんには俺から告白したという事実すらも知らないみたいだし。
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