第7話 もう、私が入れます!

「かんぱーい!」


//SE グラスの合う音


「先輩、今日は二人きりでお誕生日パーティーですねっ」


「このチキン美味しいです。あっ、先輩? もう飲んじゃったんですか?」


「待ってください。私が先輩に入れますよ?」


//SE ジュースを注ぐ音


「先輩、ブドウジュース好きですよね」


「本当はお酒を飲んで、酔った勢いでって思ってたけど……」//小声でつぶやく


「は、はい!? な、なんにも言ってませんよ!?」


「ふぅ。ごちそうさまでした」


「えっ? ケーキもあるんですか!? 食べます食べます!」


「はむ……。はむ……っ」//ケーキを美味しそうに食べる


「ふぅー。お腹いっぱいですっ」


「先輩、今日はありがとうございます」


「えっ、まだあるって? なんですか?」


//SE ガサゴソ。紙袋をあさる音


「これって……」


「プレゼント!? 私に、くれるんですか?」


「あ、開けてもいいですか?」


//SE 紙袋を破る音。


「わぁっ、かわいい! これ、チンアナゴですか?」


「家族と水族館に行った時のお土産? へぇー、本当に家族とですか~?」


「ふふっ、冗談ですよ。でも、とってもかわいいです。おっきなチンアナゴのぬいぐるみ。ありがとうございます!」


「今日はごちそうもいただいて、プレゼントまでもらっちゃって。大満足です!」


「で~もっ」


「夜はまだまだこれからですよっ」//耳もとでささやく


//少し時間が過ぎる


//SE ゲーム機を机に置く音


「先輩、ゲーム終わりましたか? 私も歯磨き終わりましたよ」


「布団も敷きましたし、もう寝ましょうか」


「電気、消しますね?」


//SE 電気を消す音


「ねぇ、先輩?」


「えいっ!」//急に耳もとへ来る


「えへへ、今日はさっそく隣に来ちゃいましたよ?」//耳もとでささやく


「先輩、もうそろそろいいんじゃないですか~?」


「なにがって? 今日は私の誕生日ですよ。特別な日ですよ?」


「だから」


//SE 布団の擦れる音


「先輩と、もっと近くなってもいいと思うんです」//真正面からささやく


「ねぇ、先輩?」


「……」//ワクワクしながら待っている


「ねぇ、先輩?」


「……」//待っている


「ねぇ? せんぱーい?」


「……」//じれったそうに待っている


「もうっ、先輩、消極的ですよー!」


「こうなったら……、もう、私が先輩に入れるしかないですね……」


「ん~~~……」//気合いを溜める


「私だって、やればトリカヘチャタテになれるんですから!」//どや顔で


「トリカヘチャタテというのは、ブラジルの洞窟に住んでいる三ミリほどの小さな昆虫です。なんと、オスのような交尾器をメスが持っていて、オスはオスにあるはずの交尾器を持っていないんです。雌雄が逆転しているということですね」


「交尾の際はメスが積極的に、オスの上に乗って交尾器を挿入しようとするんです。メスの交尾器の根もとにはトゲのような形状があって、これを使って、オスが離れないように拘束します。一回の交尾は平均五十時間にも及ぶそうですよ」


「どうして雌雄逆転の現象が起きたのかというと、オスはメスと交尾をすると、精子とともに栄養の入ったカプセルのような精包せいほうというものをメスへ渡すそうです。トリカヘチャタテの住処である洞窟の中は、食べ物が乏しいため、精包は貴重な栄養源になります。そのため、メスのほうが精包ほしさに交尾に積極的になったため、このような雌雄逆転の進化が起こったのではないかと考えられています」 


「ちなみに、この研究は日本人がやっていて、イグノーベル賞も受賞しているんです。あと、『トリカヘチャタテ』という名前は、『とりかへばや物語』という平安時代の古典が由来になっているそうですよ。この物語は、姉弟の主人公が、男女を入れ替えて育てられたという物語です」//だんだん早口に


「トリカヘチャタテのメスが、オスに入れられるなら、私だって、先輩に入れられます!」


「だから、先輩! 覚悟して、私に先輩のすべてをください……!」


「って……えっ? 先輩? それ、私がもらったチンアナゴ?」


「あぁっ!? うごごご……!」//口に物を詰められる


「先輩!? なんで口にチンアナゴを入れるんですか!?」


「やめでよ~! じゃべれないよ~! ぜんばい~っ!!」//口に物が詰まった声で




   《おしまい》




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虫愛づるカノジョ ~添い寝していると、彼女が交尾についてやたら語ってくるのだが~ 宮草はつか @miyakusa

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