[11] 疑問
なんか気恥ずかしくなったので離れる。
なにやら騒いでる声が聞こえたからそちらに足を向ければ、金のショートカットに薄い青い目をした少女が、じたばた暴れるそれよりさらに小柄な少女を後ろから抱きしめている。
捕まえてる少女は我が妹チェルシー。
「はーなーせー」
「えー、いーじゃんいーじゃん。遊ぼうよー」
「肉食う、じゃーまー」
捕まえられてる少女はジーラ。チェルシーがどこからか拾ってきた聖女見習い。灰色の髪は切りそろえられて多少見た目は小ぎれいになっている。礼儀はなってないけどぎりぎり人前にだしても大丈夫と判断した。
最初は連絡ミスを疑ってたけど、後で確認したところチェルシーはわかった上で送りつけてきたという。いわく、びびっと来たとかなんとか。
何言ってんだと思う反面、この娘のカンは当たるからなと思って、最終的には聖女として受け入れた。さすがに実務の場で使える状態でないので、現時点では見習いという形だけど。
「何やってんのあんたたち」
あきれた声でつぶやく。
「お姉ちゃん!」
チェルシーが顔をあげた。
その拍子に拘束が緩んだのか、ジーラはするりと抜け出すと、私に飛びついてきた。
「ししょー!」
どういうわけか彼女は私をそう呼んでいる。ヒマな時にちょいちょい彼女を訪ねていって、ちょいちょい教えられることを教えてたら、いつのまにかなつかれてた。
見つけたのはチェルシーだけど、いっしょに過ごしてる時間は圧倒的に私の方が多いと思う。
「はいはい。今日はあんまり暴れちゃだめだからねー」
「わかってる。きょうかい、静かにするところ」
「そうそう、よく覚えてるじゃない。えらいえらい」
腰のあたりにある頭をなでてやる。きちんと手入れされてるようで指通りがいい。ジーラはこちらを見上げてにへへーと笑みを浮かべた。
「2人ともずるい!」
「何が?」
「私だってジーラかわいがりたいし、お姉ちゃんにかわいがられたい」
素直!
しょうがないので片手でチェルシーを招き寄せてたら飛び込んできた。パーティーの最中に3人で何してんだかと思わなくもなかったが、まあこれも交流の一環か。近しい人間を大事にできないものに他の人間を大事にできるはずもない。
などと適当に理屈をひねりだしてしばらく抱擁をつづけた。最初に離れてったのはジーラで多分理由は飽きたから。何か別に興味のあるものを見つけたのだろう、おそらく食べもの、そっちの方にてってってと走っていった。
そうすると今度は姉妹2人で抱き合ってるのが急に照れくさくなってきて、どちらともなく自然と離れる。
「聞いてほしいことがあるんだけど」
ふと私はそんな言葉を口にしていた。
聞いてほしいこと? なんだそれは?
自分で言っているのに一瞬なんのことだかわからなかった。けれども冷静に自分の中を見返していった時、これだったのかと思い当たることがあった。
「私って必要なのかな?」
遠くで色んな人の話している声が聞こえてくる。それぞれみんな得意なことを持っている。
フローラの栽培技術は他人の理解できない領域に達しているし、グロリアの解析は極めて丁寧で一分の隙もない。ダレルは次期王として立派に裁量を振るっているし、イーディスの事務処理能力は神がかっている。戦闘においてチェルシーのセンスはずばぬけていて、ジーラはまあ発展途上だから気にしないものとする。
それぞれの分野において私は彼らにかなわない。自分の仕事を楽にするためいろんな人材を集めたのだけれど、そうすると今度は逆に自分のできることがなくなってしまった。
自分じゃなくて他の人がやった方がうまくいく。
考えないようにしていた。
けれどもそうした漠然とした不安を私はここ最近ずっと抱えていた。自分の仕事を減らすため先頭に立って改革を推し進めたことで、気づけば減るどころか仕事がまったくなくなっていた、皮肉なことに。
チェルシーは私をにらんで数瞬の間考えてから「お姉ちゃんバカなの?」と言った。
いやまあ自分でもバカだと思うけど、さすがにちょっとそれは厳しすぎでは、ここは嘘でももっと優しくしてほしいところなんだけど……。
「お姉ちゃんは絶対に必要だよ。これからも聖女つづけてくれないとみんなが困るよ。具体的に何がどう必要でなんで困るかとか私に聞かれてもうまく説明できないけどね!」
チェルシーは一気にそうまくしたてた。
嘘は言ってない。言ってない、が中身が何もないのは確かだ。
この娘ほんとにだいじょうぶか、励まされてる側なのに若干心配になってきた。
「ちょっとちゃんと説明できる人連れてくるから待ってて!」
そこは自分でがんばって説明するとかじゃないんだ。
遠ざかっていく妹の背中を眺めながら、私は自分の内側をもう一度眺め渡してみる。
さっき気づいたもやもやはほとんど吹き飛んでしまっていた。
あんなアドバイスとも言えないアドバイスでも解消されるもんなんだなあ。悩みを自覚して人に話した時点で半分は解決したようなものだ、とはよく言ったものだ。
ひとまず自分も根拠なく自分のことを信じてみよう。
妹が誰を連れてきて、ダレルかイーディスあたりが順当なところか、どのような励ましをしてくれるのか、ちょっとだけ楽しみにしつつ手近なところにあったワインに口をつけた。
聖女、気づく 緑窓六角祭 @checkup
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