[3] 相談
妹チェルシーとその婚約者ダレルは2人そろってためいきをつく。
仲がいいなあと思ったがそんなことを考える場合じゃない。呆れられてる対象は他でもない、私だからだ。
「お姉ちゃんはほんとそういうとこあるよね」
「なんというか、昔からすすんで厄介ごとをしょい込んでくところはあった」
かわいがってた妹と、ついでに弟のようなものに、そんな風に評価されてたのか、ショック。
実は――自分で引き受けた仕事だけじゃなくて、時間があるならと押しつけられた仕事も結構あったわけだが、それ言い出すと話が面倒になるのでやめておいた。
一番最初に飛び込んできた時のチェルシーの反応を見るに、その仕事を押しつけてきた人にすぐさま襲撃に向かいかねない。さすがにそれはよくない。私の胸に秘めておこう。
そんな私の心情を知らずにチェルシーはあっけらかんと
「でもそれなら問題の解決は簡単だね」
と言った。
「そうだな。元の人に仕事を全部戻していけばそれで解決だ」
とダレルもその意見に同調する。
なるほど確かにそれなら簡単だ。
多少の混乱は避けられないだろうがもともとやってた業務だ、時間がたてばおさまるだろう。私の方も聖女の仕事だけならすでに慣れてきてたから、最初のように慌てふためくことなく優雅にやっていけるはずだ。
がしかし
「ちょっと待って。考えさせて」
と私は異議を申し立てた。
全然論理的でないが私はその解決策は少しよくない気がした。理由はわからない。
いや『よくない』という感覚はずれてるな、なんだろう? 『もったいない』、そんな感じだ。つまりはそうだ、これは何かの機会でもっといい解決策があるような気がする。
具体的にはやっぱりまったく見えてきていないが。しょうがないからそのまま正直に言ってしまおう。
「これってチャンスだと思うの。だから安易な解決策に頼らず、もっと考えて欲しい」
「え、なに、どゆこと?」
チェルシーが聞き返してきた。
「ごめん、それは私にもわかってないけど」
なんとも頼りない言葉しか私には返すことができない。
「別な解決策と言われてもなあ」
ダレルも頭を抱えている。
私がなにより当事者なのだ。がんばって頭をフル回転させる。もう少し何か解決の糸口が欲しい。
「だから今、私のところには聖女じゃないとできない仕事と、聖女がやった方がいい仕事と、別に聖女じゃなくても構わない仕事が集まってて――」
「『聖女じゃなくても構わない仕事』までお姉ちゃんがやってるの?」
「まあ伝統的に聖女がやってたから。あと関連する仕事との兼ね合いで私が手を出した方が全体の流れがスムーズになる、みたいな」
「へー、そうなんだ。もうなんか面倒くさいからお姉ちゃんは聖女じゃないとできない仕事だけやってたらいいよ。あとは全部他の人にまかせて」
頭を使って物事を考えるのがあんまり得意な方ではないチェルシーがなげやりに言った。
不意にがばりとダレルがソファーから立ち上がった。どういうわけか、その目はきらきら輝く。
「それだよ、チェル!」
1人でテンションをぶち上げている。
手を握られてるチェルシーはもちろん私もよくわかってないのでどういうことか尋ねた。
「えーと、わかりやすいように説明してもらってもいいかしら?」
「だからね、ちょうどあっちこっちに入り組んでた業務が全部聖女のもとに集まってるんだから、きちんと整理して分配したらいいんじゃないかって話だよ」
「それだ!」
私は思わず手を叩く。さすがダレルは小さなころから国家の運営について学んでいるだけあってこういうところよく気が回る。
遅れて理解したのかチェルシーが口を開く。
「つまりお姉ちゃんしかできないことはお姉ちゃんがやって、そのほかのことは一番得意な人にやらせようってことであってる?」
「だいたいあってる」
ダレルが頷く。チェルシーも決してアホというわけではないのである。
「うーん、じゃあ『聖女がやった方がいい仕事』はどうすんの? これまで通りお姉ちゃんがやるの?」
「それも私が抱えるとなると……今よりは楽だけどそれでもきつい、かな」
「できれば、そこも聖女にまかせたいところなんだが……」
難しい。一筋縄ではいかないか。
問題はこれだけじゃないのに。
言いそびれてた、というか2人には言いにくかった、私がいなくなった時もちゃんと教会が機能するようにしたいという希望。そんな暗い話じゃないんだけど2人は過度に私のことを心配するところがある。
まあ私だって2人のことを結構心配してると思うけど。危険な場所に行かせてるわけだし。本来それだって聖女がすすんでやんなくちゃいけない仕事なのに。
古の時代は聖女が自ら周辺地域を巡って浄化をおこなっていたという。現代では聖女が中央にいないと回らない仕事が多いからそれを望む声はほとんどないけど。
能力だけ見れば私にもできなくはないけど、聖魔術の展開速度が極端に早いチェルシーの方がそういうのは得意だ。この事例に関してはぴったり上手に適材が適所にはまっている。
逆を考える。私が各地を旅して浄化、かわりにチェルシーが教会で業務を執り行うのはどうか。おそらく浄化の規模は極端に落ちるし、教会もしっちゃかめっちゃかになっていいことは何もないだろう。
聖女と呼べるほどに聖魔術を使いこなしているのは私だけだが、それ以外にもチェルシー含めて聖魔術の使い手はいて、彼女らはそれぞれ得意分野は違っていて――。
私は気づく。この手が最善だろう。ただし実現するには何枚も壁をやぶらなくてはならないが。挑戦してみる価値はある。私のためだけでなくて、将来聖女になるすべての娘たちのために。
2人に正面から向き直ると私はその答えを堂々と言い放った。
「聖女を増やしましょう」
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