第16話 第2回妻女山の戦い(繁信16才)

空想時代小説 


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 前川の部落が襲われたことで、周辺の部落も警戒を強めた。藩も村役人を常駐させて何かあった場合は、すぐに連絡が行き、周辺の部落から応援に行く手はずになっていた。

 だが、山賊もさるもの。陽動作戦をとってきた。夜半に、妻女山の南側の中川の部落が襲われた。村役人は、すぐにのろしをあげ、救援を頼み、明け方には山賊を追い払うことができた。しかし、その同時刻、東側の梁川の部落が襲われ、食料やおなごが奪われていった。梁川の部落の主な者は、中川の部落の応援に行って留守だったのだ。

 真田源斎は、主だった者を集めた。その中には、若輩ではあったが繁信も末席に連なっている。

「皆の者、何か知恵はないか? このまま山賊をのさばらせておくわけにはいかん」

 繁信はあたりを見わたしたが、だれもそれに答える者はいなかった。だれしもが、山賊を攻め討ち取りたいのだが、今までに何度も苦渋を味わっている。それを打開する手がないのだ。息が詰まってきたところで、村上和之進が口を開いた。

「ここは、繁信殿の考えを聞いてみては? 前川の部落が襲われた時には、繁信殿の策で退けることができました」

 周りの者もうなずき、繁信の発言が許された。繁信は末席にいるものの、まだ正式な藩士ではない。いわば客分なのだ。その者の発言を許すということは、身分の厳しい仙台藩では考えられないことだった。

「うむ、繁信、何か策はあるか?」

真田源斎が繁信に問うた。

「はっ、ここはだれかを密偵として山賊の仲間にすべきかと。前川の際は、わが手下の円寿坊という僧兵あがりの者が自ら山賊の仲間となっていたので、山賊の動きがわかりました。草の者を放つという手もありますが、山賊が動きだしてからの動きしかわかりませぬ。ご家中に潜り込める方はおりませんか?」

「村上、いるか?」

真田源斎は、不安げに問うた。村上は、周りの者の表情を見てから頭を横に振った。たとえいたとしても、すぐにばれて山賊に斬られることは明白だった。

 その日は、皆、策を考えてくるということで別れた。


 夕刻、幻次郎が繁信に報告しにやってきた。

「繁信殿、広真寺に繁信殿に会いたいという者たちが参っております。例の碓氷峠の山賊どもです」

「宍戸左衛門殿か?」

繁信は、驚きを隠せなかった。碓氷峠の山賊どもが来るのは、雪がとけてからだと思っていたからだ。今はまだ、峠の雪は深いはず。早速、広真寺に向かった。そこには、手負いの者も含め、5人ほどの山賊がいた。

「左衛門殿、いかがなされた? 来られるのは雪がとけてからでは?」

「うむ、そのはずだった。だが、松井田藩にやられた。最初は、旅人をよそおった侍たちに襲われ、その後、すみかも襲われた。何人やられたのかもわからん。皆には、松代の繁信殿を頼れ。と言って別れた。この後も、訪ねてくる者がいると思う。繁信殿の助けをするから、ぜひかくまってくれ」

左衛門は、哀願するような声で頼んだ。

「それはもちろんのこと。元々は、こちらから言い出したこと。まずは、ゆっくり体を休まれよ」

そう言って、三井知矩や円寿坊に命じ、山賊どもの世話をさせた。

 夜分に、繁信は真田源斎を訪ねた。

「なんだ、こんな夜分に?」

源斎は、今日の談合がうまくいかなかったので、少々機嫌が悪かった。

「ご家老、お知らせしたいことがあり、参上いたしました」

「何事じゃ?」

「実は、私の知り合いの山賊が碓氷峠のすみかからやってまいりました」

「お主は、山賊の仲間までいるのか?」

「はっ、旅の途中で知り合いました。その者の父は、亡き祖父信繁と共に大坂の陣で戦ったそうです」

「落ち武者の末裔か。となると・・・・」

「そうでございます。その者たちを妻女山に潜り込ませれば・・・」

「そうだな。ばれる心配は少ないな」

「ただ、ひとつお願いがあります。その者たちの役目がうまくいった時は、ほうびをお願いいたしたく・・・」

「そうだな。妻女山の山の権利と村ひとつではいかがかな? 梁川の隣の油川の村には今だれもおらぬはずじゃが・・・」

「あそこでしたら100人が住めまする。うまくいけば、荒れ地が開墾され、年貢も入りますな」

「うむ、早速手配せよ。家臣どもには秘密にしとく。どこに山賊の目や耳があるかわからんからな」

ということで、翌日、繁信は左衛門と話し合い、妻女山の山賊どものすみかに潜り込む手配を整えた。要は、繁信ら藩士の何人かが左衛門らを追いかけて、妻女山に追いつめるという手はずである。その策は、早速行動に移され、左衛門たちは妻女山に入っていった。

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